鈴木 勝 研究室
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大阪明浄大学・観光学研究所紀要
第一号(2002年11月) 掲載論文

「旅行企画戦略の一考察」  
―21世紀は国際ツーリズム時代―

A study of the strategies for tour planning
-The age of international tourism in 21st century-

<キーワード>「海外パッケージ・ツアー」・「旅行企画」・「海外旅行商品の低廉化」
「選択肢多様化」・「国際チャーター便解禁」・「熟高年マーケット」


T 研究の目的

 
 我が国旅行産業にとって、近年、急激に海外旅行における企画戦略が問われる環境になり、同時にそのような事態や事件が発生している。小論の目的は、「旅行企画」が国際ツーリズムを活性化させる原動力であるという認識に立ちつつ、今後、どのような「旅行企画戦略」があるかを考究するものである。
 2001年9月に
アメリカの同時多発テロが発生し、各デスティネーションではその後の旅行・観光産業の落込みをカバーする手法として旅行企画戦略に期待が寄せられているし、羽田空港の国際チャーター便解禁や成田空港の暫定滑走路完成による新規デスティネーションの登場で旅行企画能力が試される場面などが次々に登場している。
 他方、インターネットの進展につれて、航空会社やホテルなどのサプライヤーによる直販体制、いわゆる“中抜き現象”が加速され、また旅行産業への異業種参入が活発な動きを見せ、旅行会社の存在が問われている。このような環境下で旅行会社における「旅行企画」が、この困難を救う方策であるとの認識が次第に強くなってきている。
 例えば、アメリカ同時多発テロ直後、この影響で日本人の海外旅行が急激に落ち込んだ際に発せられた旅行産業界からのあるコメントが象徴的である。「ただ名所を巡るだけの観光旅行でなく、はっきりとした目的のある旅行が増えていればこれほど日本人の旅行は減らなかったのかもしれない。芸術や音楽などの魅力ある素材を生かした商品企画が必要1」である」。

消費者の厳しい多様化したニーズに対応するために、また新しいライフスタイルを目指し未来の市場を開拓しリードしていくためにも、商品企画能力を高めていかなければならない。一方、急速な勢いでインターネット時代が進み、これに対応した特別の商品企画があろうし、また海外での着地型旅行などの新型の企画も必要に迫られている。

U 日本人の海外旅行の隆盛と旅行企画
1.海外旅行の隆盛

 東京オリンピック年の1964年に、わが国では観光目的による海外旅行自由化が実施され、この年に13万人弱の海外渡航者があったが、アメリカ同時多発テロ発生の2001年には前年に比してその数を落としたが、最終的に1,622万人となった。この間37年間のうち4回の落ち込み2)を経験したが、毎年、順調に右肩上がりに伸びてきたことになる。1980年からの伸び率を参考として、示せば下記のようになる(図表1)。指数化した日本人の数値を世界全体と比較すれば、2倍近く日本人は伸びていることになる。

                  
(図表1)「 海外旅行の伸び」

      

 項目

80

 

85

 

90

91

 

92

 

93

 

94

 

95

 

96

 

97

 

98

 

99

00

01

 

日本人
出国者数

人員

391
(万人)

495

1100

1,063

1,179

1,193

1,358

1,530

1,670

1,680

1,581

1,636

1,782

1,622

指数

100

 

127

 

281

 

272

 

302

 

305

 

347

 

391

 

427

 

430

 

404

 

418

456

415

 国際観光旅行者総数

人員
 

287
(100万人)

328

457

460

503

518

553

565

597

618

637

697

指数

100

 

114

159

160

175

180

193

197

208

215

 

222

243

(資料)JTBレポート2002、法務省出入管理統計、WTO 1998/1999   
※WTOの予測数値。なお、WTOは修正値を発表するが、同時にそれ以前をも修正するので、注意が必要である。

ところで、このように日本における海外旅行マーケットが伸びてきた理由に関して、一般に下記の事項が指摘されている。
@「日本人の余暇・休暇生活に対する意識の変化」
A「国際化・国際交流推進の精神」
B「日本国民の所得水準向上」
C「休暇の増加(週休2日制定着、有給休暇の取得日数増加、年間労働時間の短縮、および
ハッ
ピーマンデー制定など)」
 以上のように、海外旅行を増進させるバックボーンの存在があり、同時に次のような直接的な要因(D〜H)が存したために、1,600万人の海外旅行者に到達したものと考えられる。
D「大型航空機の発達(移動時間の短縮化、路線ネットワークの拡大、輸送量の増大)」
E「円高」
F「海外旅行代金の低価格化」
G「世界における魅力あるデスティネーションの開発」
H「日本人の各層が楽しめる海外旅行形態の企画造成」
 
 上記の直接的要因の中でF〜Hの項目が、本論で考察する「旅行企画」にとり密接に関連した要因であろう。中でも強力な要因は、F「海外旅行代金の低価格化」であろう。特に、バブル経済崩壊後には、「価格破壊」をキーワードにした極度の安値志向が登場している。その現象はパッケージ・ツアーに現れている。
 「旅行商品の市場拡大に貢献した最大の要素は価格であった。旅行業者はほとんど自己マーケティングの努力なしに航空運賃の値下がりと円高という外部要因によって、市場拡大の恩恵を受けてきた。旅行会社の価格政策と呼べるものはほとんど存在しなかった3」」との発言はあるが、決してそうではない。後述するように、低価格化実現には旅行産業による旅行企画面での様々な努力が同時にあったことは事実である。例としては、「選択肢多様ツアー」、「値ごろ感価格ツアー」、「子供半額ツアー」、「1名または2名催行ツアー」、「シャトルバス利用ジョイント・ツアー」などの企画である。

2.旅行企画の牽引力
1)
旅行産業における企画商品「パッケージ・ツアー」

 「旅行の手配内容をみると、パッケージ・ツァーへの参加が50.8%と最も多く、次いで個人手配旅行34.0%、団体旅行7.8%と続く。ここ数年の推移では、パッケージ・ツアーの占める割合は50%前後であまり変動がないのに対し、個人旅行が増加し、団体旅行が減少傾向にある4」」。この調査でもわかるように、旅行企画に依存する部分は過半数を超える。この実績を維持してきた理由としては、まず、消費者のニーズに基づき旅行企画の内容を柔軟に改善してきたことはもちろん、海外旅行者総数の増加により、従来は個人でしか可能でなかったSIT(スペシャル・インタレスト・ツアー)が企画商品として組み込まれ、数多くパンフレットに登場したことを指摘しなければならない。最近の消費者の旅行トレンドには個人旅行化、いわゆるFITが脚光を浴びてはいるものの、日本人の海外旅行市場を牽引してきたのは、まぎれもなく不特定多数を対象とする「パッケージ・ツアー」の存在であった。

2)「企画能力が問われる旅行商品」
 旅行企画が問われるのは、中心的にはパッケージ・ツアー、すなわち「主催旅行商品」であるが、手配旅行商品の中でも旅行企画能力が問われている。それらを図示する
(図表2・・・省略・HPへのCOPY不可のため)。
・・・・・・・・・・・・・・・

3)旅行企画の顕彰の効果
旅行企画の重要性をいち早く読み取り、「ツアー・オブ・ザ・イヤー」の名前で顕彰してきた組織5)が存在するが、この制度(イベント)は旅行産業界における 旅行企画の重要性の認識や旅行企画能力アップに大いに貢献している。ツアー・オブ・ザ・イヤー(1994年〜2002年)のグランプリおよび準グランプリを掲示する(図表3)。これら以外に各種の「特別賞」も存在する。なお、選定に関しては下記の基準および主旨が発表されている。
@「どれだけ売れたか」はもちろん重要とするが、集客実績だけで判断されない。
A企画の革新性や、マーケットおよびデスティネーションを開発し、いかに業界の将来に貢献しえるかなどを評価している。
B旅行会杜の存在価値や、仕事のやりがいを業界内で働く人に再認識してもらうこと。
Cこれらの賞はリピーターだけでなくビギナーの需要の掘り起こしにつながるような、
様々な旅行ニーズに対応した商品が出てくることを期待し、消費者にとっても選択肢が広がり有益である。

D旅行業界に対して、大々的に発表するため旅行商品のパテントも尊重されることになる。

        (図表 3) 「ツアー・オブ・ザ・イヤー」旅行商品     

年度

タイトル

企画会社

1994

グランプリ

「地球人学校 ふれあいウォーク、ロマンチック街道と欧州紀行9日間」

全日空ワールド

準グランプリ

「国別じっくり見るシリーズ大フランスの旅」

朝日新聞事業

 

「2億年の時を越えて秘境化石の森ヘアリゾナの大地をひた走る浪漫バスツアー8日間」

JTBワールド

1995

グランプリ

「パプアニューギニア チャーター便特別企画」3社共同企画

沖縄ツーリスト・アトラストレック・クラブアイランダー

準グランプリ

「南仏プロヴァンスの12か月〜ピーターメイルの世界ヘ〜南仏プロヴァンスとパリ8日間」

ヴィータ

「ネイチャリングツアー企画シリーズ」

新和ツーリスト

1996

 

グランプリ

「ルックJTB ユーラシア大陸横断12000q 50日間バスの旅」

鰍iTB中国旅行

準グランプリ

「ブレイガイドツアー フィジー」

潟vレイガイドトラベル

1997

グランプリ

 

「ロイヤルマッハ 五大陸・専用機・世界一周の旅32日間」

日本旅行

 

準グランプリ

 

「ルックJTB特別企画エジプトを極める11」

ディスカバーワールド

「オーロラヘの旅」

プレイガイドツアーケイエス

5

1998

グランプリ

(該当なし)

 

準グランプリ
  

「アフリカ大陸横断エクスペディション200日」

道祖神

「クリスマス・スペシャル ウィーンの宮殿晩餐会の旅 ウィーンの森少年合唱団のクリスマス・キャロルと華麗なワルツ」

グローバルユースビューロー

「カナダ・スキー修学旅行」

プレイガイドツアーケイエス

6

1999

グランプリ

(該当なし)

 

準グランプリ

「ブルートレインの旅 春の花咲く南アフリカ13日間 希望峰・ヴィクトリアの滝・チョベサファリ」

西日本旅客鉄道・オフィス旅工房

「激流奔る長江の上流と麗江の旅」

ワールド航空サービス

7

2000

グランプリ

「ブルゴーニュ・ロマネスクの旅」ロマネスクの旅シリーズ16回」

毎日新聞旅行

準グランプリ

 

「香港パノラマ・ハイキング5日間」

郵船トラベル株式会社

「南米発見500年記念 美しき南米アンデス・パタゴニア紀行 世界最南端への旅19日間」

主催・西日本旅客鉄道(株)/企画・有限会社オフィス旅工房

8

2001

グランプリ

日蘭交流400周年記念「日蘭大陸横断レールクルーズ29日間」

九州旅客鉄道株式会社

準グランプリ

遙かなるブッシュマンの大地「セントラルカラハリ11日間」

株式会社近畿日本ツーリスト

「風のチベット」シリーズ

株式会社風の旅行社

9

2002

グランプリ

北極点への船旅

ワールド航空サービス

準グランプリ

ヴァイオリニスト天満敦子が奏でる世界遺産・古城コンサートの旅7日間

グローバルユースビューロー

「風のチベット」シリーズ

株式会社風の旅行社

注)「旅行会社」に関して、表彰の際の部課名は削除。

 ところで、商品企画上、「定番ツアー」と呼称されるものに言及したい。「ツアー・オブ・ザ・イヤー」に見られる企画が日本人旅行者に刺激を与え、旅行を牽引してきたことは事実であるが、「定番商品」も毎年多くの参加者を集め重要な存在であることが、時に見過ごされる。「定番」だからといって、毎年同じ内容で発表されるものでなく、さらに顧客ニーズに対応すべく毎年新たな企画が挿入されることが常である。このことにより、多数の顧客が満足感を表し、参加者が増加する。「旅行企画」の重要性を考える時に、同時に「ツアー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるリピーター向けの特殊ツアー以外にも考慮することが必要であろう。時には「ツアー・オブ・ザ・イヤー」商品以上に、定番型ツアーに旅行企画の優れた点を見つけ出す日本人旅行者も多い。 

4)海外旅行を牽引してきた旅行企画事例

パッケージ・ツアーが歓迎された2大特徴としては、「旅行費用の低廉化」および「旅行形態の多様化」が挙げられる。従来、日本における海外旅行は職場旅行、招待旅行、医師会、老人会など、いわゆる「一般団体旅行」と呼ばれる形態が主流であったが、近年は不特定多数の消費者対象のパッケージ・ツァーが大きくシェアを伸ばすに至っている。商品企画能力が発揮される場面であり、新しい旅行スタイルを目指して市場を開拓しリードしてきた。これまでの秀でた企画事例を掲げてみる。 

(事例1)「選択肢多様化」企画  
 
消費者の多様性へのニーズに対して、著しく選択の余地が拡大されている。これらの選択性拡大は
旅行企画戦略のキーポイントとなってきた。
@)「フライト数拡大」は、航空会社や旅行会社のオペレーション上の非効率が原因で、定形パターンによるパッケージ・ツァーのフライトが長期間継続されてきたが、近年、とみに選択肢が増加している。
A)「ホテル数拡大」は、各種選択幅が拡大した中で、ホテルの選択肢拡大がもっとも注目に値する。数量面と質的面(デラックスからスタンダードまでなど)の両者が存在する。

B)「観光数拡大」は、各デスティネーションでの複数による観光が登場し、リピーター参加者にも利便性を有している。
C)「オプショナル・ツアー数拡大」は、顧客の多様化およびリピーター化に対応している。
D)「滞在日数選択」は、顧客の希望に応じて日数選択や延泊を可能とする。

(事例2)「値ごろ感型多数価格帯」企画  
 
365日を通じ、ピーク、ショルダー、オフなどと呼称され、これらのカテゴリーに分類し、価格付けを行い、需要喚起と収益を企図するものである。加えて他社商品との差別化を狙う。海外パッケージ・ツアーが誕生した頃には単一価格であったが、現在では10種以上の価格が、当該ツアー・シリーズに付与されることが一般的である。これは例えば、ゴールデンウィークや盆などの「ピーク」といえども、一律的な価格付けをせず、さらに細分化する手法であり、きめ細かな企画戦略が実施される。反面、夏期休暇前後のオフ期には需要喚起を目指し、ドラスティックな価格付けがなされる。航空会社やホテルからの仕入価格では、顧客の要望する価格、いわゆる“値ごろ感”価格からは遠くなり販売増加は難しくなるケースが多い。
(事例3) 「子供半額」企画  
 ファミリーが海外旅行に進出し始めたころ、旅行会社6)が打ち出した企画は旅行業界に拡大を見せ、結果的にファミリー旅行需要を伸ばした。このアイデアは旅行会社が仲介せず、航空会社やホテルだけのサプライヤーだけであれば誕生しなかったことになる。なぜなら、
元来、正規団体航空運賃には子供半額システムは存在せず半額になることはなく、70%〜100%が一般的であった。他方、ホテル部屋料金は子供に対して割引価格はない。当該会社では子供連れマーケットを先取りし、航空会社やホテルに50%割引を交渉しスタートさせた。これは企画戦略で旅行会社が主導権を握ったケースである。

(事例4)「素材単純組み合わせから脱却した仕掛け」企画  
 旅行のパーツの組み合わせだけでなく、「新仕掛」の企画を練る。事例として、観光地でのシャトルバス運行や地域でのショーやイベントを作る商品企画が、行動の多様化を望むマーケットに受け入れられ、旅行客を拡大させた7)
現地サービス・システム拡充は旅をよりエンジョイさせる試みとして、世界各国でシャトルバスの類の企画を行った。これはグループ旅行をいかに個人感覚で旅行できるかを追求の末できた企画であり、「量を追求しながら質へも迫った商品」と呼ばれている。

(事例5)「ジョイント・オペレーション(共同催行)」企画  
 パッケージ・ツアー募集上の
1名または2名よりの出発保証」は“365日出発保証”の実施である。異なる出発地(東京、大阪、名古屋、福岡など)や異なる出発日ツアー相互間で、可能な限り共同催行させる“ジョイント・オペレーション”は 旅行企画担当者の能力を如何なく発揮する場面である。365日出発保証の企画商品の出現により、海外旅行者の増加を加速させたことはたしかである。

V これからの旅行企画戦略

これからは、マーケットの変化も早く、個人のニーズもさらに多様化し、高齢化時代が進み、環境問題などがますます重視されてくる傾向にある。ますます旅行企画が試されるチャンスが多くなるが、どのような分野で要求されるか考察してみたい。
1)「熟高年」対象旅行企画   
 「各旅行会社とも、時間的、経済的に余裕のある熟年層をターゲットとして、熟年層向けのシリーズを拡充したり、別冊パンフレットを作成するなど、積極的な商品展開を行った。熟年層を対象とした商品の特徴としては、『自然』、『教養』、『趣味』といった要素を盛り込んで、熟年層の知的好奇心を惹きつけようとするものが増えており、インストラクターやガイド付きで自然探訪や登山・ハイキングを行うツアーや、史跡や文化遺産を訪ねるツアーが人気を集めている。また、サービス面でも空港から自宅への荷物配送を行ったり、経験の少ない参加者向けに旅行説明会を開いたり、海外での食事にミネラルウオーターを提供したりする商品が増えてきている8」」。近年、熟高年対象の旅行企画が増強した結果、“考える企画”を促すことに繋がっているように思える。多くのホールセーラーが熟高年世代向けの専用パンフレットを作成し、全産業界が狙う成長マーケットにアピールしているが、熟高年世代の増加につれて、この傾向は今後、さらに加速されるであろう。ホテルなど素材にはこだわるが、それ以外は無関心ないしは無頓着というOL層などとは異なり、旅程をできるだけ充実させたい熟高年層には、旅行会社が“旅を作って売る”という余地が残っており、いわば、企画提案が必要な熟高年市場であるといってよい。ところで、熟高年マーケットの伸長でこのマーケットを重視する旅行会社が、経営的に苦しい旅行産業にあって、堅実な経営を行なっている9)

2)「国際チャーター利用便および成田空港暫定滑走路開設後」旅行企画 
 2001年2月にスタートした「羽田空港国際チャーター便の解禁」がある。チャーター便を利用した旅行を幅広く企画することによって、新たな海外旅行マーケットの創造と旅行需要の拡大が見込めることになった。したがって、この分野においてさらに旅行企画能力が問われることになる。スタート初年度から大きく伸びている。ニュースで発表された事例を紹介する(JTBニュースリリース2002年第10号−
羽田発チャーター便販売状況―図表4)。
販売期間:2001年2月16日(金)〜2002年2月8日(金)
チャーター設定本数/座席数:
55本、10,938
販売本数/座席数:
48本、3,772名(販売座席シェア35%) 

                     (図表4)「羽田発チャーター便販売状況

方面

販売本数

販売人数

ソウル

16

1,798

グアム

22

1,129

ホノルル

250

ベネチア

195

済州島

166

パラオ

142

ウルムチ

92

 

合計

48

3,772

設定概況コメント:開始後1年目は航空会社の設定都合に左右され、ソウルとグアムのデスティネーションが8割弱を占めています。中でも注目の新デスティネーションは、「ベネチア」や「ウルムチ」です。旅行会社としては、基本的に、羽田発国際チャーター便は次の条件のいずれかが満たされる時にパックツアーとして商品化し、前向きに取り組んできました。

(1)新しいデスティネーション開発に繋がる旅行先である。(直行便のメリットを生かせる)
(2)成田空港発の定期便の座席供給量が需要に追いつかない場合に補完する。(ピーク時の人気旅行方面など)。
(3)価格的なメリットがある。(シリーズチャーターのように座席あたりの航空運賃のメリットがある場合)」。

他方、2002年4月に成田空港暫定滑走路がオープンしたが、これも商品企画が拡大される事例である。「4月18日、成田空港暫定滑走路(B滑走路)がいよいよオープンします。これにより、中国方面を中心にアジア諸都市への航空座席供給量は大幅に増加します。増便となる主な方面は、中国(座席供給量前年比215%)、香港(同135%)、台湾(同135%)、韓国(同145%)、ベトナム(同330%)、インドネシア(同131%)などです。また、モンゴル(週3便)、パプアニューギニア(週1便)への直行便が新たに開設されます。(カッコ内数値はJTB推計。夏期スケジュールピーク時基準)。成田空港の航空座席供給量の増加は旅行マーケットの拡大に繋がり、更に新規路線の開設は新しい旅行需要を開拓することから、旅行業界でも大いに期待されています10」。

3)「インターネット」旅行企画
 インターネットで販売可能な旅行商品は、インターネットの特性を生かした、消費者に魅力あるものでなければならない。通常のパンフレット掲載の商品をそのまま、インターネットをツールにしただけでは効果はない。インターネットに対応した商品企画が必要である。では、どのような商品企画が考えられるだろうか。

@「低廉性商品」。現行のパンフレットや新聞・旅行雑誌への広告宣伝と比較して、極端に安い料金での商品が完成できる。

A「出発間際商品」。インターネットのリアルタイム性に着目した旅行企画戦略が可能である。現行のパンフレット作成には3週間から1カ月を要する。分厚いものとなればこれ以上の期間を費やすことになるからである。

B「SIT商品」。いわゆる、“付加価値の高い旅行”企画戦略がインターネットに向いているケースがある。

C「現地着地型商品」。例えば、海外の旅行会社のホームページにアクセスすれば、現地ツアーに申込みが可能となる。したがって、海外支店/営業拠点による「現地着地型旅行」企画が可能である。

4)「FIT」旅行企画

個人旅行志向が急激に高まってきている。すなわち、海外旅行のリピーターが増加するに伴い、団体でまとまって行動するよりも、個人の自由を尊重する旅行である。FIT型旅行者とは、「海外出張者」、「家族知人訪問」、「短期・長期留学」などが挙げられる。FIT型旅行者のマーケットの性格は、@行動は少人数、A個別の目的を有し、B定型の観光を嫌い、C旅程は不定型、に集約できる。いいかえれば、企画旅行商品に最も吸引しにくいマーケットといってよい。しかしながら、個人で自由に旅行する層すべてが、格安航空券やペックス航空券を購入するなどの個人手配旅行マーケットではない。パッケージ・ツアーの自由行動型に参加する場合もかなり多い。したがって、FIT旅行企画戦略に関しては、これらを使い分けた企画手法が重要視されている。

5)
「環境保護」旅行企画

  ツーリズムの活発化に伴い観光開発や訪問者の急増に起因して、美しい自然や文化遺産が被害を受けつつある。これらの被害に対して、自然環境の保全を重視した観光の形態ないしは行動、いわゆる、“環境にやさしい旅行”の企画が重視されている。すなわち、持続可能な観光に基づいた旅行企画が求められている。そのタイプとして、エコツアー、アドベンチャーツアー、エスニックツアー、文化遺産ツアーなどがある。なかでも、観光の持続可能なタイプの1つとしてのエコツアーに関して、近年、議論と研究が進み、旅行会社では種々の企画造成が行なわれている。具体例として、中国の黄河や万里の長城における植樹ツアー、バリ島における「SAVE THE MANGROVE」ツアー、カンボジアのアンコールワット遺跡保存ツアーなどである。

6)「大型浪漫型」企画
 個人では行きがたい、もしくが実現しがたいデスティネーションや旅行方法、例えば、バスでの大陸横断、世界一周、イベント企画などは今後の需要が期待されており、企画能力が発揮される分野である。ツアー・オブ・ザ・イヤーでグランプリ(1996年)をとったJTB中国旅行では「ユーラシア大陸横断12,000q 50日間バスの旅」の企画に続き矢継ぎ早に、「ユーラシア大陸縦断〜ベトナム・中国・モンゴル・ロシア〜旅37日間」、「黄河流域をゆくバスの旅5,200キロ・30日間」、「長江流域をゆくバスと船の旅5,300キロ 30日間」を発表している。また、1997年に「ロイヤルマッハ 五大陸・専用機・世界一周」企画でグランプリを得た日本旅行は、2002年下期に企画内容を変えて「五大陸・世界一周〜極彩色の地球をめぐる32日〜」を打ち出している。

W  旅行企画上の課題
.旅行企画と危機管理

 主催および手配する旅行商品に対しては、企画・現地・販売個所は各種情報を収集し、企画や実際の手配を行わなければならない。その他、「各種安全情報の提供11」や「緊急の際の対応」がある。近年の低価格化などの影響で種々の問題提起がなされている。例えば、低料金で契約した海外のバス会社やボート会社が引き起こした事故、または正規の営業ライセンスのない土産品店所有のバスによる市内観光やトランスファー中の事故などである。一方、最近の旅行形態の傾向としては砂漠や秘境等を訪問するような安全面から問題となるような旅行企画も増えており、一方、若年層においては、旅行費用を節約するあまり治安状況の悪い宿泊施設に滞在し犯罪に遭遇するケースもみられる。これらに関しては入念な旅行企画が必要とされる。前述の「ツアー・オブ・ザ・イヤー」(1996年)でグランプリを得た「ユーラシア大陸横断50日間バスの旅」12の旅行企画に際しては、催行前の数年間、長期間の現地情報収集、現地踏査などの安全管理・危機管理対策が実施されたことが報告されている。

2.旅行企画と為替変動

旅行会社は顧客から収受したツアー代金のうち、外国での滞在費、交通費、食事代その他の経費に該当するいわゆる「地上費」を、原則として現地通貨または米ドル(時には日本円で)にて送金する。その際の適用レートが重要である。為替レートの変動により、「価格決定時点での適用レート」と「ツアー実行時点での決済レート」の差いかんにより、為替差益・損が生じることになる。送金額は相当多額となるので、旅行代金の見積もりの時点での適用レートの決定は、旅行会社の収支に決定的な影響を及ぼすことになる。為替差損が大きければ、当該旅行会社は大幅な赤字決算に追い込まれるほどに、企業経営に大きく影響する。そのためにレート決定に関しては、為替動向についての内外の情報を収集し慎重に予測した上で、トップにより最終の経営判断がなされる。この商品価格決定の際にリスクを見込んで安全にレートを予測すれば、その分がコストに跳ね返り価格ラインが割高となり、競争上不利となり販売不振に陥ることになる。
 ところで、為替変動に大きく関与する、一般的な地上費の割合を下記に示しておこう。
           @  55%  〜 75%     航空運賃

                 A  30%  〜 20%     地上費
                 B  15%  〜  5%     収益

最近の激化する価格競争下では、上記の枠内に入らないケースも多く現出しているし、また、デラックス・カテゴリーとスケルトン(骨格)型ツアーでは地上費の占める割合も大きく異なるが、掲示された数値は標準的といえよう。
 

3.旅行企画とCS   

CS(CUSTMER SATISFACTION)、すなわち、顧客満足度とは、顧客の期待値を上回る商品、サービスを継続的に適用できる管理システムを稼動することにより、顧客の支持を得て、新規顧客創造とリピート率が維持・向上させる状態」とされている13)。旅行商品のCSは旅行企画に際しての重要な留意点である。価格競争ばかりが先行している現在、この問題がなおざりにされている。顧客への満足度を追求する企画思考や行動が競争に打ち勝つ最大の要件であろうと考える。 

4.旅行企画と人材

人々が旅行をする動機には種々ある。旅行商品企画で、こうした消費者のニーズを的確に把握する必要があり、その上で商品企画を行なう。したがって、旅行企画戦略にとって、種々述べてきたが、最も重要な要素は「人材確保」であると考える。商品企画担当者が最も心すべきは、常に感受性を磨き、クリエイティブな感覚を持ち、「顧客」と密接に結びつき失敗を恐れないイノベイティブな精神が不可欠である。「旅行の企画というのは、基本的にそんなに成功しないものだ。10の企画があったとしたら、そのうちの7か8ぐらいはまず失敗する。ヒットする企画は2か3くらいのものだろう14」。

X 結語
小論では、旅行企画の一考察を試みたが、消費者性向はますます多様化しつつあり、これらに照準を合せた商品企画戦略が不可欠である。考察を加えてきたように、今後、旅行企画能力が試される機会が格段に増加している。これらの機会を捉えて、商品を企画化し発表することは国際ツーリズムを活性化することに繋がる。同時に、低価格商品や格安航空券販売を中心とする、現在の低利益率旅行産業経営の圧迫からの解放をも意味することになるだろう。

「参考文献」
津山雅一・太田久雄共著『海外旅行マーケティング』同友館、2000年。
佐々木正人著『旅行産業概論』JTB能力開発、2001年。
今井成男・古田正一著『観光概論』JTB能力開発、1998年。

長谷政弘編著『観光学辞典』同文館、
1997年。
澤田秀雄著『「旅行ビジネス」という名の冒険』ダイヤモンド社、1995年。
鈴木勝著『国際ツーリズム振興論(アジア太平洋の未来)』税務経理協会、2000年。
財)日本交通公社『旅行年報2001』JTB、2001年。
株式会社トラベルジャーナル『週間トラベルジャーナル』。

JTBワールド『JTBワールド10年史』JTBワールド、1998年。

財)日本交通公社『JTB REPORT2001日本人海外旅行のすべて』JTB、2002年。
財)アジア太平洋観光交流センター『世界観光統計資料集
2001年版』APTEC、2001年。

1 高橋秀夫・近畿日本ツーリスト社長(日経2001年12月17日)
2) 「第二次オイル・ショック(1980年)」、「湾岸戦争(1991年)」、「景気低迷(1998年)」、「アメリカ同時多発テロ(2001年)」の4回である。
3)津山雅一・太田久雄共著『海外旅行マーケティング』同友館、2000年、53頁。
4」 財)日本交通公社『JTB REPORT2001日本人海外旅行のすべて』JTB、2001、44頁。
5) 日本旅行作家協会および潟gラベルジャーナルとの共催
6) ジェットツアー(1997年自己破産)が1992年にオーストラリア・ツアーでこの企画を発表した。その後、世界全方面におけるファミリー旅行推進に寄与した。
7) ルックJTBによる現地シャトルバス運営「OLI OLIバス」や「香港シャトルバス」が有名。
8」 財)日本交通公社『旅行年報2001』2001年、37頁。
9) ニッコウトラベル、ワールド航空などが顕著な旅行会社である。
10 JTBニュースリリース2002年第26号
11 外務省は2002年4月、海外危険情報などの制度見直しを正式発表した。危険情報は、従来の5段階の危険度による数字表記を廃止。「十分注意して下さい」「渡航の是非を検討して下さい」「渡航の延期をおすすめします」「退避を勧告します」の4段階の文章表記に変更した。
12このシリーズは1995年に初めて企画され、2002年まで15回を数える。これまでの参加者はのべ240名となっている。平均年齢67才。中国の西安からトルコ・イスタンブールまでのシルクロード14,000キロを50日(シリーズ中、55日になることもある)かけて横断する内容である。
13) 長谷政弘編著『観光学辞典』同文館、1997年、196
14澤田秀雄著『「旅行ビジネス」という名の冒険』ダイヤモンド社、1995年、P115