鈴木 勝 研究室
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東洋大学
「環日本海地域・観光ソフトインフラ基盤整備に関する研究学術研究学会」
(下方に発表論文あり)

北東アジア研究者・発表者一同 大阪観光大学学生も一緒に

↑主催者・梁東洋大学教授を囲んで

↑中国・廖教授と

 

会場案内/Map of Hakusan Campus 

東洋大学白山キャンパス2号館

2nd Building, Hakusan Campus, Toyo University 

都営地下鉄三田線「白山」駅,A3出口から「正面」徒歩5分

東京メトロ南北線「本駒込」駅,1番出口から「正門」徒歩8分

5 min. from A3 Exit of Hakusan Station (Mita Subway Line)

8 min. from No.1 Exit of Hon-komagome Station (Nanboku Subway Line)

 連絡先/Office

学術研究大会実行委員会 事務局

Executive Committee of Academic Research Forum

374-0193 群馬県邑楽郡板倉町泉野1-1-1 東洋大学国際観光学科梁研究室内

Professor Liang, Department of Tourism, Toyo University

Phone+Fax (81)-0276-82-9152  E-mail: liang@itakura.toyo.ac.jp

 

[toyo11]学術研究大会

Academic Research Forum

 

 

 


 

北東アジア観光交流促進に向けて

 

Towards the Promotion of Tourism Exchange in Northeast Asia

 

主催/Organizer

環日本海地域の観光「ソフト・インフラ」研究チーム

             学術研究大会実行委員会

Executive Committee of Academic Research Team

Tourism Soft-infrastructure Research in Northeast Asia

 

日時/Date

2006年9月21日(木) 13:00〜18:30

September 21, 2006 (Thursday) PM13:00〜18:30

 

場所/Place

東京都文京区白山5-28-20東洋大学白山キャンパス2号館16階スカイホール

Toyo University, Hakusan Campus 2nd Building, Sky Hall

5-28-20 Hakusan, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan 

本大会は、文部科学省科学研究費補助金の助成を受けて運営されています。

This Academic Research Forum is partially supported by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology and its Grant-in-Aid for Scientific Research (B), (16330106), 2004-06. This is part of the series of Study on Soft-Infrastructure for Tourism Development around the Sea of Japan, managed by Toyo University under the sponsorship of Japanese Government, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology。


 

プ ロ グ ラ ム 

13:00 開会の挨拶 大会実行委員長 藤井敏信(東洋大学国際地域学部長,日本)

13:10 開催趣旨説明 梁 春香(東洋大学,日本) 

セッション1 研究報告会 13:2015:20 司会 松園俊志(東洋大学,日本)                                                        

謝 彦君(東北財政大学,中国)

杜  (南開大学,中国)

王 曉峰(吉林大学,中国)

李 応珍(デグ大学,韓国)

香川 眞(流通経済大学,日本)

鈴木 勝(大阪観光大学,日本)

薄木三生(東洋大学,日本)

古屋秀樹(東洋大学,日本)     

15:20〜30 休憩 

セッション2 シンポジウム(北東アジア観光大交流促進に向けて)15:30〜18:20   

15:30〜16:00 基調講演 吉田 進(環日本海経済研究所理事長

16:00〜18:20 パネルディスカッション

パネリスト

梁 春香 (東洋大学,日本)

李 基j (慶熙大学,韓国)

夏 林根 (復旦大学,中国) 

Ms. Navchaa Tugjamba(人文大学,モンゴル)

Ms. Liudmila Bliznyukova(ハバロフスク日本センター,ロシア)

大西 広 (京都大学,日本)

コーディネーター 

佐々木宏茂(東洋大学,日本)、小浪 博英(東京女学館大学,日本)

 

18:20 閉会の挨拶 松園俊志(東洋大学,日本)

18:30〜20:00 交流懇親会 (会費3,000円/学生1,000円)

 Timetable  

13:00 Opening Remarks Prof.  Toshnobu FujiiToyo University, Chief of Committee

13:10 Forum Opening Presentation Prof Liang ChunxiangToyo University, Japan 

Session 1 Primary Reports from Japan, China and Korea  13:2015:20      

Chairperson   Professor MatsuzonoToyo University, Japan

Prof. Xie YanjunDongbei University of Finance &Economics, China

Assoc. Prof. Du WeiNankai University, China

Assoc. Prof. Wang XiaofengNortheast Asia Studies College of Jilin University, China

Prof. Lee Eung-JinDaegu University, Republic of Korea

Prof. Makoto KagawaRyutsu Keizai University, Japan

Prof. Masaru SuzukiOsaka University of Tourism, Japan

Prof. Mtsuo UsukiToyo University, Japan

Assoc. Prof. Hideki FuruyaToyo University, Japan 

15:2030 Break 

Session 2  15:3018:20

Symposium by Representatives of Japan, China, Korea, Russia and Mongolia 

15:3016:00 Keynote Speech

Mr. Yoshida (President of Economic Research Institute for Northeast Asia, Japan)

16:0018:20 Panel Discussion

Chairpersons

Prof. SasakiToyo University, Japan Prof. KonamiTokyo Jogakkan College, Japan

Panelists

Prof. Liang ChunxiangToyo University, Japan

Prof. Lee Kee-JongKyung Hee University, Republic of Korea

Prof. Xia Lin GenFudan University, China

Ms. Navchaa TugjambaLecturer, University of the Humanities, Mongolia

Ms. Liudmila BliznyukovaJapan Center in Khabarovsk, Russia

Prof. OhnishiKyoto Universtiy, Japan 

18:20 Closing Remarks   Professor MatsuzonoToyo University, Japan

18:3020:00  Farewell Party

 

2006年9月21日)       

環日本海地域・観光ソフトインフラ基盤整備に関する研究学術研究学会


「中国における観光ソフトインフラ整備と

         国際観光発展に関する一考察」

―日本人の中国旅行を事例として―

      A Study on Tourism Soft-infrastructure and

      Int’l Tourism Development in China

     -The Research through Japanese tourists to China-

                        
大阪観光大学観光学部 鈴木勝

1.            はじめに

世界は“グローバル大交流”時代の到来である。世界観光機関(WTO)の予測によれば、現在の7億人の全世界の外国旅行者数が、2010年には10億人に、そして2020年には16億人になるという。なかでも、中国を包含するアジア・太平洋地域での観光の伸びは著しく、2000〜2010年にかけて年平均増加は7.7%と試算され、世界全地域で最大の伸び率を示し、巨大空港建設を軸として、アジア・ビッグバンと称される現象が2010年代に出現すると言われている。中国に関して、2020年における世界観光の長期的展望の中で、同機関は次のように言及している。「中国は、1億3,710万人の外国観光客を迎える『受入国NO.1の国』になり、世界に向けては中国人旅行者1億人を出す『送出国NO.4の国』になるだろう」との予測である。特に、インバウンド観光に関して、この発表後に、2001年のアメリカ同時多発テロ発生で世界的に国際観光客の落ち込みを見せたが、中国はこれを克服し、さらに2003年にSARS(新型肺炎)に見舞われ危機に立たされたものの、急速な復旧をほぼ成し遂げた。加えて、近い将来の2008年の北京オリンピックおよび2010年の上海EXPOを好機として、当面のインバウンド観光量増強の目標と定め進んでいる。

本稿では、中国のインバウンド観光発展の強力な原動力である「観光インフラ」、いわゆる「ハードインフラ」と「ソフトインフラ」の整備に焦点を当てて考察を試みるものである。考察をさらに進めて、「ソフトインフラ」に着目し、その整備の充実によりどのように国際観光が進展してきたか、そしてソフトインフラが将来どのように観光発展上、役割を果たすかを追求するものである。

 

2.            訪中日本人旅行者の活発化とその要因

中国は、わずか15年前の1990年には世界12位であったが、2000年には世界第5位に昇り、その後現在までそれを継続させ、有数の「インバウンド観光大国」に上っている。なかでも中国への最大の観光客送出国である日本の伸びは目覚しく、2001年には中国は世界全デスティネーションのなかで、前年まで第1位の韓国を抜きトップとなっている。その後、2005年度時点においても、同様の地位を確保する伸びを示している(図表1)。

       図表1   中国への旅行者数/日本人及び世界全体

事項   年

日本人
(人)

前年比増
(%)

世界全体
(人)

前年比増
(%)

1989
1990
1991
1992
1993
  1994
  1995
  1996
  1997
  1998
  1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005

358,828
463,265
640,859 
791,531
 912,033 1,141,225 1,305,190 1,548,843
1,581,747
1,572,054
1,855,197
2,201,513
2,384,500
2,925,800
2,254,800
3,334,255
3,389,976

     -
29.1
38.3
 23.5  15.2  25.1  14.4 
18.7
 2.1
▲0.6
18.0
18.7
 8.3
22.7
▲22.9
47.9
1.7

1,460,970
1,747,315
2,710,103 
4,006,427 4,655,857   5,182,060   5,886,716   6,744,334  7,428,006  7,107,747
8,432,300
10,160,040
11,226,300
13,439,400
11,402,900
16,912,430
20,255,100

     -
19.6
55.1
47.8
16.2   11.3  13.6  14.6 
10.1
4.3
18.6
20.5
10.5
19.7
▲15.2
48.3
19.8

(資料)中国国家旅游局、国際観光機構JNTO
(注)「世界全体」には、華僑および香港・マカオ・台湾同胞は含まず。

近年、全世界的に観光交流が盛んになってきた一般的背景として、次の5つの要因1)が指摘されている。@経済発展・安定、A外国旅行の制限緩和・自由化、Bツーリズム・インフラの整備、Cデスティネーション開発、Dプロモーション活動の開発、などである。

中国においては、観光拡大の要因としては、環境的には中国の安定した政治的・経済的・社会的側面が指摘できるが、とりわけ、B番目の観光におけるハードおよびソフト両面での整備が大幅に整えられたことにより、“安心感”および“快適感”が急速に促進されたことである。その結果、従来、団体中心であった中国が1人旅行でも十分エンジョイでき、中国旅行はハワイやグアムの形態に急接近し、そのうえこれらのデスティネーションにない長い歴史と種々の文化に裏打ちされた魅力が加わっている。また、中国旅行となると熟高年だけのマーケットとして捉えられてきたが、近年ではヤング、OL、ファミリーなどあらゆる客層に広がってきている。 

3.            観光インフラの基盤整備と国際観光の発展(その1)「観光ハードインフラ」

「観光ハードインフラ」の整備は観光振興のスタート段階で、一般に大なる効果を発揮する。中国における発展段階でどのような役割を果たしているかを項目別に記したい。

「ホテル」   国際級ホテル建設は観光振興に強力なインパクトを与える。身近なアジア太平洋地域のなかでも、とりわけ、中国は外国資本、主にデラックス・カテゴリーに該当する国際的ホテルの中国各地の進出で急速に観光が促進されている。外国人ツーリストの近年の増加を支えている大きな要因である。このクラスのホテル建築や運営による好影響は、当該地域における観光の流れを強く促進させるとともに、その国や地域のツーリズム・レベルを著しく向上させる。一例として、合弁ホテル建設は優れた民族資本によるホテル建設を誘発する良い結果をも生んでいる。中国においては全国に散在する外資系チェーンホテル、例えば、五星外資系はヤングレディ・マーケットに対して、清潔感や安心感を与え、そのマーケット誘致に寄与している。同時に、これらとの競争で民族系ホテルの建設やサービスアップが促されている。現在、世界の大手ホテルが中国市場での事業を拡大しつつある。経済成長に伴うビジネス需要と北京五輪、上海万博を控えた観光客需要の拡大に対応するのが狙いでもある。

「空港建設・航空便就航」     21世紀のハブ空港を目指して、近年、各国で次々と大型空港が整備されている。身近なアジアでは、シンガポール・チャンギ空港に続き、香港・チェックラプコックは香港返還の翌年19987月にオープン、クアラルンプールのセパン空港は構想から8年掛かりで19986月にオープンした。2000年には韓国のインチョン空港も仲間入りした。とりわけ中国では1999年の建国50周年を機会として、顕著な進展が見られた。国の重点プロジェクトであったのが、北京首都国際空港の新ターミナルの完成や上海浦東国際空港であった。特に、後者のオープンは中国への旅客収容能力を一気に拡大させた。それら以外に整備された中国国内空港を含め、世界各国から航空機が飛来している。

道路・鉄道ネットワークの整備」   旅行形態のなかでも、FIT(個人旅行)やリピーターが増加すれば必然的に、定番のコースから外れていくことになる。彼らが多くなればなるほど魅力あるデスティネーションとみなされるであろうし、ツーリストも増えることになる。中国を含めたアジアでは、国内の道路網が未発達もしくは未整備の理由で、大都市観光に偏重したツーリストの動きに留まっているケースも少なくない。例えば、中国の内陸部シルクロードのウルムチやトルファンへもっと行き易くなれば、さらに頻繁な往来が図れるであろう。最近、中国でも徐々に整備されつつある。北京郊外の万里長城へは高速道路の完成で、かつての1日コースの見物が今ではハンディーな3時間コースになっている。これにより、短期間訪問者にとって万里長城以外の歴史的魅力にも選択の幅が増加したことになる。また、中国を発着する国際列車ネットワークがある。例えば、北京からウランバ−トル(モンゴル)、北京―モスクワ(ロシア)、北京―ピョンヤン(北朝鮮)などが整備され、快適性・安全性・正確性が増しスピ−ドアップが実現されれば、さらにツ−リストを呼び寄せる観光資源になりうるのである。

「ショッピング店舗」   ショッピング性向は、国民性により大きく異なる。ここに日本人の海外旅行中の活動に関してのデータがある。「旅先で行なった活動」として、下記の事項がリストアップされている。

図表2 「旅先で行なった活動」

1

自然風景観光 

65.9

2

買物

65.6

3

グルメ     

51.8 

4

歴史文化観光    

49.5

5

のんびり休息

33.4 

資料)「JTBレポート2006

近年、価格や商品それ自体の魅力が薄れたことにより、ショッピングが減少している傾向がある。しかしながら、このデータが示すように、「買物」は圧倒的なシェアを保っていることがわかり、今なお海外旅行中における活動の重要な要素である。しかし、重要な行動とはいえ従来の方法を変更しない限り、この分野の今後のシェアは落ち込みを留めることは難しい。この観点から中国のショッピング店舗の最近の変化が旅行客を誘発している。中国には古くから友誼商店と称される店舗が各地に存在した。掛け軸、漢方薬、白酒、印鑑、筆・硯と、特に熟高年層を意識した品物が多かったが、近年、この友誼商店も品揃えも多岐にわたり、デラックスな店舗に改築する一方、観光の昼食時に立ち寄るレストランも併設した、大型土産品店に模様替えしている。また、北京や上海の国際空港の免税店も従来に比べ格段に品揃えが豊富になり、遅らばせながら、購買意欲を掻き立てるようになった。熟高年、OL、ファミリーの客層により、土産品には大きな差異がある。さらに欲を言えば、商品も中国全土で同一にせず、地域独自のオリジナル商品の開発や宣伝が増せば、さらに伸びていくであろう。

「旅行会社」   中国において旅行会社は最も対外開放の遅れた業界の1つであった。2000年のWTO加盟以前には中国で外資との合弁旅行会社は皆無であった。ようやく加盟後はその関連規定に基づき、中国の旅行会社は外資との合弁会社を設立することができ、業務範囲や地域などの制限も徐々に解消されていくことになった。2000年3月に日本のJTBは中信旅游総公司と合弁会社「新紀元国際旅行社有限公司」を設立した。また、2002年1月、中国国際旅行社とアメリカン・エクスプレス社(香港)が「国旅運通旅行社」を作り、他方、中国康輝旅行社とロ−ゼンブルス社(米国)は「康輝羅森国際商務旅行」を各々北京で設立した。その後、独資旅行会社の設立が認可され、2003年12月に日系旅行会社として、日本航空グループの「日航国際旅行社有限公司」が第1号として設立された。現在、数社の日系旅行会社が進出している。もちろん、これらの進出は外国人の中国旅行を大いに促進させ、同時に質的にもレベルを高めつつある。 

4.            観光インフラの基盤整備と国際観光の発展(その2)「観光ソフトインフラ」

ハードインフラにはソフトインフラが同時に必要な場合が多く、両輪で進展することが望ましい。近年、急速に拡大する中国観光は、ソフトインフラ整備の進展の賜物と考えられる。同時に、将来の中国観光促進には、リピーター、FIT、幅広いマーケット層を繋ぎ止めるために、このソフトインフラ面の整備がより望まれているといってよい。

「渡航規制緩和政策の実施・@入国査証免除/A査証免除トランジット(通過)/Bパスポートの残存期間・査証取得の簡素化」   
@
国際観光客誘致の条件の中でもかなりのウェイトを占めるのが、入国査証、入国手続き、通関の迅速化など入国条件に関するものである。中国は、WTO加盟後の新たな情勢に対応するため、出入国管理の簡素化や規制の緩和などが検討され、2003年秋には全面的に開放、日本人のNO-VISAが実現した。中国への無査証滞在が可能な条件は、一般旅券(入国時旅券の残存期間が15日以上あること)を所持し観光・業務・親族訪問・通過目的で入国する場合、出入国日も含めて15日以内となっている。ビザ免除年以降、継続的に高い水準を保っている。

A中国では2000年1月から上海への「48時間ビザなしトランジット滞在」を、上海の2つの空港間の乗り継ぎの便宜をはかるためにも、これをスタートさせた。この無査証事例は中国で初めてのケースであり、日本から第3国への観光またはビジネス旅行の際に、上海を含めたコースが可能になった。この政策実施は、2003年9月1日以降において中国全体がノービザ制へ移行したために影が薄まった現象であるが、それまでは査証取得が必須の中国にあって、画期的なことであった。
B国家による政策で観光振興を企図できる方策に、パスポートの「残存期間の短縮政策」がある。入国時に一定日数以上のパスポート有効残存期間が必要であるとする国が存在する。これは入国者の不法滞在を取り締まる見地からの規則でもあり、平均して6カ月を求める国々が多い。しかしながら、観光振興上、「帰国時まで有効なもの」とする施策が効果を発揮することは言うまでもなく、近年、「帰国時まで有効なもの」、もしくは期間短縮の国々が目立っている。SARSを経験した中国は、2003年9月1日より日本人に対して査証免除を認めるとともに、同時に旅券残存期間6カ月間を15日間に大幅に緩和している。次に、査証申請書類の簡素化がある。さらに、査証取得に要する期間短縮に留意する必要がある。最近のリピーターには1週間以内の旅行決定も多い。彼らを当該国へ誘致させる手法として「査証取得日数の短期化」が有効である。

「観光ガイド」   リピーターやFIT傾向の旅行が増加すればするほど、ガイドの質の向上が要求される。旅行会社や観光振興を目指している政府観光局では、近年、ガイド教育に力点を置きつつある。特に、競争が激しい旅行産業ではCSを高める最重要課題として、ガイド教育を掲げている会社も多い。ところで、国家的に観光ガイドを多く養成している国として中国がある。観光ガイドは“民間外交官”としての位置づけとして捉えられてきた経緯もあり、大学の外国語学部での厳しい教育には定評がある。観光旅行の良し悪しは、ガイドにより決定されると言っても過言ではない。中国旅行もその例外ではなく、むしろ諸外国に比して重要性を帯びている。何故なら、ハワイ、グアム、バリ島などのリゾート地と異なり、広大な国土、多様な民俗と文化、悠久の歴史を有する中国への一般観光客は、よほどの中国通でない限り、北京の故宮、万里長城、西安の兵馬俑坑などの説明不要と言う人はまれで、ガイドの説明が頼りである。従って中国の旅行産業ではガイド教育は特に重要視されているのである。また最近の旅行形態の変化もある。空港からホテル間だけの送迎だけの旅行、いわゆる「スケルトン・タイプ」の旅行が多くなり、ベテランのガイドの実力を発揮する分野が減少することになる。また、低廉化の影響で、団体の到着後にオプショナル・ツアーの販売やショッピングの勧誘に余念がなく、せちがらいガイドにならざるを得ないのも近年の実態である。 

「外国語による表示案内」    外国人旅行者に対する各種の表示がいかになされているか観光振興には重要なポイントである。明解な表示や説明は快適な旅行には不可欠である。外国人旅行者に対する対応は、空港の表示だけに留まることなく、混雑した空港内の案内デスクにおける訓練されたスタッフの配備など、もう一段のサ−ビス向上が要求されよう。最近では中国の主要空港では、日本語アナウンスも登場している。また 最近の国際航空機内では、英語以外の日本語、中国語などがかなり使用されるようになっている。中国国籍の飛行機では、中国語、英語だけであったものが、日本語も加えられるようになっている。

「中国旅行における選択肢の多様化」    中国旅行の多くの面で選択肢の多様化現象が見られるが、「食」の面での進展を述べて見たい。最近の中国旅行の誘いには、料理を前面に打ち出した、いわゆる、「グルメ・ツアー」が盛んである。「北京ダック」、「宮廷料理」、「薬膳料理」などの伝統料理に加えて、「麺を極める」、「点心を極める」、「旬の一皿・上海蟹」、「餃子宴」などの「食在中国」のアピールである。従来、中国旅行における三度の食事は、「総合服務費」と呼称される予算で仕切られ、各地域の郷土料理が主体で、その土地の名物料理や西洋料理など中華料理以外の選択は不可能であった。しかし、最近の旅程ではホテルや食事を自由に選択できる余地が拡大され、旅を更にエンジョイできるシステムに変化している。

「多様なニーズに合致した中国ツアー」   近年、「FIT」や「大型浪漫型ツアー」が拡大しつつある。前者の旅行に関して、個人旅行志向が急激に高まってきている。すなわち、海外旅行のリピーターが増加するに伴い、団体でまとまって行動するよりも、個人の自由をより尊重する形態の旅行である。最近は北京、上海に代表される1都市滞在型(モノ型)も増えてきている。今後は「広範観光型/観光の専門分化・多様化型」に加え、「見聞型/体験型」に変化していくであろう。受入側の体制もこうした変化(FIT化)に対応出来る体制とシステムを構築していくことが肝要である。一方、「バス旅50日間」などの、いわゆる、“大型浪漫型ツアー”がある。「ツアー・オブ・ザ・イヤー(日本旅行作家協会および株式会社トラベルジャーナルとの共催によるイベント)」でグランプリ(1996年)をとったJTB中国では「ユーラシア大陸横断12,000q 50日間バスの旅」をはじめとして、「ユーラシア大陸縦断〜ベトナム・中国・モンゴル・ロシア〜旅37日間」などが発表されているが、観光資源の豊富さだけでは、これらのツアー企画の成功はありえない。自然や文化面での観光資源に加えて、ソフト面での観光インフラが充実しなければ実行不可能である。

「治安・事故・トラブル」    最近のデータによれば、日本人の海外旅行を阻む要因として「治安が心配である」がトップになっている。
図表3   「海外旅行の5大阻害要因」

1

治安が心配である

43.8%

2

言葉に不安がある

34.5

3

健康に不安がある

27.8

4

費用がかかりすぎる

25.5

5

飛行機が嫌いである

25.2

資料)JTBレポ−ト2006

日本人は「安全」に対して敏感で、政治・経済・社会の安定こそが拡大の重要なポイントである。緊急医療制度、保険・補償制度、警察などの手続きや対応、公式情報の開示などに関して「メディカル面で、乳幼児連れや高齢者には中国やインドネシアやタイなどアジア諸国はためらってしまう」というある消費者のコメントからでも明白であろう。近年、日本人の海外修学旅行が盛んになってきている。もっとも重要な要素は「安全性」や「緊急対応」であろう。中国旅行でも北京や上海などの大都市では、「安全性」が完備するようになってきたが、内陸部などこうした事故対応や安全確保の整備がさらになされれば、旅行客は増加するであろう。

「オペレーション意識の高揚(オンタイム発着率)」    時間帯の励行を行うことにより、日数の短期化を図り、結果的に観光の促進化ができる手法である。航空輸送にとって、安全性とともに拡大のためにもう1つ重要なことがある。それは「オンタイム発着率」である。シンガポ−ル航空や日本航空のオンタイム発着率は世界でも毎年、上位にランクされているが、アジアの開発途上国では欧米と比べこの「正確性」の意識が欠けていると言わざるをえない。航空便の「正確性」はビジネス客だけでなく、国際観光の促進に絶大な効果が期待出来る。評判の悪かった中国国内線に関して、WTO加盟を機に中国首相が「発着時間を守ろう」と大号令をかけ、大きく改善された。このような「オンタイム発着率の向上」は「オペレーション・ソフトの向上」が必須である。この意識を高めることが乗り継ぎのための時間を節約し目的地へ確実に到着することによって、余暇時間が生まれ観光全体を活性化させる効果があがるのである。

 5.結論に代えてー観光ソフトインフラ整備と国際観光発展との関係―

中国における国際観光が飛躍的に伸び、なお現在も伸びつつある理由は、ハードインフラの整備に負う場面が確かに多いが、このように毎年持続して拡大する理由は「4.観光インフラの基盤整備と国際観光の発展(その2)観光ソフトインフラ」の整備にあると考えられる。特に、SARS後2003年秋から、観光復活に「渡航規制緩和政策・入国査証免除」が導入されたが、2004年の大幅増(図表1における前年比47.9%増)に大きく寄与していると推論できる。また、近年、中国にはリピーターやFITが増加しているが、この現象はハードインフラ整備以上に、ソフトインフラの充実によると考えることが当をえていよう。加えて、ヤングやOLなどのマーケット・セグメントは、清潔面や治安面に強く注意を払う観点から推測すると、ソフトインフラ整備の充実の効果がより発揮していることがわかる。最後に、今後、観光ソフトインフラ整備の中で、最も重要性を帯びるであろうものは、「ホスピタリティ・マインド」でないかと考える。国際観光の発展を図るには政府や観光産業関連者の努力だけでは真に安定的な発展は望めず、海外からの観光客を受け入れる側の国民の歓迎意識の高揚であろうと考える。       

6.「参考文献」
財)アジア太平洋観光交流センター(2005)「世界観光統計資料集20012005年度版」APTEC
財)アジア太平洋観光交流センターAPTEC1999)「ツーリズム:ビジョン2020APTEC
ツ−リズム・マ−ケティング研究所「JTBレポ−ト2006」 鰍iTB監修
JNTO
20004)「世界と日本の国際観光交流の動向」財国際観光サービスセンター
三菱総合研究所(19992000)「中国情報」三菱総合研究所
杜)日本観光協会(20014)「数字でみる観光」社)日本観光脇会
王文亮(2001)「中国観光業詳説」日本僑報社
鈴木勝・国松博(2006)「観光大国 中国の未来」鞄ッ友館
鈴木勝(2000)「国際ツーリズム振興論(アジア太平洋の未来)」税務経理協会

1) 津山雅一「東アジア・西太平洋地域における爆発するツーリズムの背景」(『日本国際観光学会論文』)、P40