「中国のWTO加盟とビジネス・チャンス…観光産業」
T]最近の中国における国際観光
近年、中国における観光産業は活発な動きを見せている。これは単に政府が積極的に推進するインバウンド分野、いわゆる、「外国人の中国旅行」のみならず、中国人の海外旅行も急上昇している。とりわけ、1999年には受入において史上最高の外国人旅行客を迎えたことが画期的なことである。これら双方の潮流は更に継続し、拡大の勢いにある。
1)
増加傾向の外国人旅行者
(図1)からもわかるように、世界各地からの外国人観光客はアジア金融・経済危機の影響を受けた1998年を例外として、それ以外はほぼ二ケタ台の伸率で成長していることがわかる。もちろん、日本人渡航者もその例に漏れない。すでに、「世界第6位」の有数の“観光大国”に数えられている(1996年の統計による)。WTO(世界観光機関)によれば、2020年には華僑・華人を含んだ海外からの旅行客は、1億3,710万人に及ぶ世界NO.1の旅行デスティネーションになると予測している。このように急上昇する外国人観光客誘引の理由は、下記の事項であろう。
@ハード・インフラの整備・・・まず、国際水準ホテル建設の急速な進み具合である。外国資本を大胆に導入した結果、ヒルトン、シェラトン、ウェスティン、シャングリラ、マンダリンなど世界トップクラスのホテルが林立するに至った。これらのホテル群は、従来、中国に乏しかった“旅の安心感”と“清潔感”を与えることになり、ヤングやファミリーを含めた世界の観光客を引き付けている。また、航空路線や便数の拡大も大きな貢献を示している。特に、日本と中国間の路線拡大は凄まじく、すでに中国の13都市への広がりを持つ。北京、上海、大連、青島、広州、西安、杭州、天津、瀋陽、武漢、重慶、廈門(アモイ)、昆明。一方、日本サイドは成田、大阪、名古屋、福岡、仙台、広島、長崎、新潟、岡山、福島、富山、札幌となる。国際級ホテルや航空ネットワーク・国際空港の整備以外に、レストランやショッピング・センターの建設や改造、国内の交通網(鉄道、バス路線など)整備・拡張が強力に進められてきた。
A
ソフト・インフラの整備・・・微笑での応対を含めた“観光ホスピタリティー”が世界の標準に大きく近づきつつあることである。
2)
中国人の海外旅行ブーム
中国人にとって、“出境旅游熱”、いわゆる、“海外旅行ブーム”が、アジアの国々を中心に続いている。これを推進させている理由は、改革・開放政策の進展による中国人の経済的ゆとりである。これに加えて、土・日曜の週休二日制、労働時間の大幅な短縮、国内旅行の割高感などである。また、1997年7月の「中国公民自費出国旅游管理暫定弁法(規則)」の制定・施行で、「観光目的」での旅行が許可されたことによる。現在、中国人の外国旅行に関して、観光目的の場合の渡航先は、自由に選択できるわけではなく、「ADS(APPROVED
DESTINATION STATUS)指定国(観光目的指定国)」と称される国々に限定されている。アジアでは、タイ、韓国、シンガポール、マレーシア、フィリピン、そして、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランドを指定している。これらの国々に続き、「日本」が第8のADS指定国になるか、現在、両国間協議が継続されている。なお、割高感のある国内旅行とはいえ、中国で隆盛である実態を見落としてはならないだろう。1998年には6.9億人の国内旅行者が存在することが報告されており、今後も増加の傾向にある。
U]WTO加盟と中国観光産業
観光産業の対外開放は中国におけるサービス・貿易開放の重要な一環であり、なかでもホテル業は早くから外資導入に踏み切り、観光産業の隆盛の牽引車となっている。加えて、旅行業もWTO加盟をにらんで開放度を速めている。「中外合資旅行社試点暫行弁法…中外合弁会社モデルケース暫定法」が1998年10月に国務院で批准され、同年12月に施行されたのも大きな進展である。一方、航空業は1987年に国営中国民航は「非効率」、「低サービス」、「官僚主義」排除を標榜し、競争原理を導入し、国際航空、東方、西南、西北、南方、北方に分社化された。しかし、近年の収益悪化で、航空会社再編の段階を迎えている。今後、外資導入の論議も出てくるが、それ以前に技術提携、アライアンス、コード・シェア政策などが活発に論議されてくるであろう。これら以外の観光関連産業に関して言及すれば、たとえば、ショッピング店、レストラン、各種テーマパークなどもマーケットに応じて、変革・改造が不可欠であろう。ここでは、観光産業の中心的存在の旅行業に言及してみたい。
*「旅行業」・・・元来、政府の観光政策は1978年に改革・開放政策を打ち出して以来、国家経済発展を推進する資金調達の手段としてきたため、外国人旅行者の誘致を主体としてきた。この経緯から、中国における旅行会社は、制度的にはT類、U類、V類の三種に分けられ、T類は海外の旅行社(者)と直接交渉できる資格を有し、U類はT類旅行社が受けた外国人旅行者の地上手配(ホテル、食事、列車など)を行い、V類は中国人旅行だけに限定されるシステムにあり、旅行会社の中心は外国人観光客の推進が主とされてきた。近年の対外的観光プロモーションは,活発化してきている。特に、1999年は建国50周年を機に,観光推進上の好材料が続出し、世界園芸博をはじめ、種々のイベントが開催された。中国の観光関係者の外国への「観光ミッション」や「セールス出張」も頻繁になっている。一方、中国国民による外国旅行に関しては、当面、旅行社を指定して、制限的に、かつ計画的に発展させていくこととしている。1998年現在、国際旅行社1,312社、国内旅行社4,910社存在するが、その中で67社が指定旅行社とされている。当該旅行社に限って、観光指定目的国への自費海外旅行を催行することが可能としている。
ところで、中国政府が、インバウンド分野を視野に入れ、合弁旅行会社を許可したのは、下記理由などによろう。@外資旅行社のネットワークを利用し、外国人誘致を更に促進させる、A進歩的なマネジメン方式を導入し近代的な経営体制を造る、Bサービスアップをすることにより競争に打ち勝つシステムを構築する、などであろう。他方、合弁会社設立の懸念としては、@利幅の薄い旅行業の競争下で、必ずしも外資旅行社が有利に働くともいえない。すなわち、商品価格に関して、外資旅行社の場合管理コストが高くつくため、‘庶民的’価格を打ち出すのは容易なことではないであろう。
A中国人の海外旅行の取り扱いが不可能であり、果たして営業的メリットがあるか。B中国の組織の中で人事や業務分野で計画的に機能できるか、などである。したがって、「全額出資」、いわゆる、“独資”で旅行会社が設立できる段階まで待つ方が得策との考えも存する。しかしながら、合弁旅行会社において、コンスタントな伸びの見込める外国人の受入ビジネスを行うとともに、拡大基調の中国人の国内旅行も視野に入れて営業展開する中・長期的な経営戦略もある。特に、現在の中国人の国内観光マーケットは未成熟であり、近代的経営手法をとることにより、勝負に勝つことは比較的容易であろう。また、将来的なアウトバウンド・ビジネス(中国公民の海外観光旅行業務)への一つのステップと考慮すれば、合弁旅行会社設立のメリットも少なくない。特に、日本が「第8・ADS指定国」となれば、日本のインバウンド観光関係者は中国の大マーケットにインボルブされる。この時点で有利に展開させることができるかどうかは、各社の企業戦略による。ちなみに、日本のJTBは、2000年4月に北京に本社を置く新旅行会社「新紀元国際旅行社有限公司」を設立した。これは前掲の法律に基づく、日中間での「初の合弁旅行会社」である。
(図1)「中国への旅行者数/日本人及び世界全体」
事項 年
|
日本人 (人)
|
前年比増
|
世界全体(人)
|
前年比増
|
1992
93
94
95
96
97
98
99
|
791,531
912,033
1,141,225
1,305,190
1,548,843
1,581,747
1,572,054
1,855,200
|
23.5%
15.2
25.1
14.4
18.7
2.1
▲
0.6
18.0
|
4,006,427
4,655,857
5,182,060
5,886,716
6,744,334
7,428,006
7,107,747
8,432,300
|
47.8%
16.2
11.3
13.6
14.6
10.1
▲
4.3
18.6
|
(資料)中国国家旅游局(1999年は百人未満未発表)
(図2)「1999年/訪中外国人旅行客」
項目
順位
|
(国名)
|
(万人)
|
(前年比増)
|
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
|
日本
韓国
ロシア
アメリカ
マレ−シア
モンゴル
シンガポ−ル
フィリピン
英国
ドイツ
|
185
99
83
73
37
35
35
29
25
21
|
18.0%
56.8
20.4
8.7
24.2
▲2.8
11.4
16.3
6.6
13.4
|
|
(世界全体)
|
843万人
|
18.6
|
(資料)中国国家旅游局
(図3)「中国人/外国旅行者数」