鈴木 勝 研究室
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<ファシリテーター>        

 

講演テーマ「食文化を活用した国際ツーリズム振興」
(論文全文は、下記の「大阪観光大学紀要2007.3月号」参照ください)
http://www.meijo.ac.jp/library/no.7MasaruSuzuki.pdf
 

<スピーチ内容> 
下段に「トラベルジャーナル誌」掲載文があります。

                                                        ( ↑ 写真:TIJニュースから抜粋)

皆様、こんにちは!

ただいま、ご紹介いただきました大阪観光大学の鈴木です。どうぞ、よろしく

お願いいたします。これから、20分ほどお時間をいただき、「食文化を活用した国際

ツーリズム振興」のタイトルにて、お話をしたいと思います。

 

 

今回、このような由緒ある「ツーリズム・サミット2006」に参画できましたこと、

誠に光栄に感じております。

 

「ファシリテーター役」、および、「シンポジウム進行役」をご指名いただきましたが、

私自身、今回のテーマである「食文化」に通じているかと、問われますと、先ほど、基調

講演をなさった服部先生や、後ほどご登壇いただきます「シンポジウム」の3人のパネ

リストの方々と比較しますと、かなりの差があり、誠に寂しい限りでございます。

 

しかしながら、なぜ、ご指名をいただいたかと申しますと、たぶん、私自身の

過去の経歴からではないかと、考えております。

 

6年前から、大学で教鞭をとっておりますが、それ以前に、30年以上、旅行会社に勤務

しており、その大部分を、日本人の海外ツアーの企画にタッチしてきました。また、

10年ほど海外の地、オーストラリアに5年、中国に4年・・・駐在しておりました。

 

その間一貫して、「世界の食文化」と「旅行商品」との合体・融合を心がけてきました。

すなわち、世界の食を紹介し、いかにツアーの中に組み込むかに努力してきました。「グ

ルメ・ツアー」がありました。ローカル色豊
かな郷土料理の「食べ歩きツアー」がありま

した。また、自由行動の多いツアー対象に、ミールクーポンによる「ダインアウト・プロ

グラム」を作ったりもしました。

 

「本日は、このような経歴を基にして、最近の大学での観光学研究を合わせて、話をと」

いうことなのでしょう。

通常、90分の話を、本日は、20分にて行いたいと思います。

やや、早口になりますことを、お許しください。

 

まず、「食文化」と「ツーリズム」に関しての言葉の紹介と整理の話です。 

現在、我々の周囲には、国内および海外旅行には、「グルメ・ツアー」とタイトルが

付されたものが随分ありますが、厳密な意味でのグルメ・ツアーでない場合も少なくあり

ません。
 

また、観光統計類に「グルメ・ツアー」また、「食べ歩き」の言葉が、使用されています

が、旅行者マーケットの実態の把握面でどうかと言いますと、やや曖昧さが存在するよう

に思えます。
 

今回、「食文化」を「ツーリズム振興」の柱に据えて、アピールしていこうとするなら

ば、明確な意味を持つ、「語彙」なり、「キャッチフレーズ」が必要ではないかと、考え

ています。

 たまたま、「FOOD TOURISM Around the World」なる書物を友人から紹介されました。

読むほどに、この図に出合いまして、「目からウロコ」でした。
 

ここにピンクに掲示していますが、自分なりに、日本文のニュアンスを付してみたわけで

あります。これらを簡単に説明したいと思います。

 

『フード・ツーリズム』・・・・、日本での意味では、「グルメ・ツアー」、「食べ歩

き」、「それら以外」を含ものであり、この語彙は、「食文化」と「ツーリズム」に関係

する様々な形態
をほとんど包含しているものであろうかと思います。

まず、この図でありますが、横軸は、「旅行動機付けとして、いかに食文化に関心度があ

るか」を、左→右に、「強」から「弱」になっております。

「食を第1の目的とする」→次に、「食も強い1つの目的」→そして、「従属的」となっ

ております。一方、縦軸は上方に行けば行くほど「総量が増加すること」を意味していま

す。
 

@まず始めに、「極めて高い関心度」の範疇に属するものとして、

「グルメ・ツーリズム(Gourmet Tourism)」、

「クイジーン・ツーリズム(Cuisine Tourism)」、

「ガストロノミック・ツーリズム(Gastronomic Tourism)」、

 

A「中レベルの関心度」として、耳慣れない言葉の、「カリナリー・ツーリズム」、があ

ります。

「ユニークで印象的な食または食文化」を求めるものであり、「並列的にイベントなど

の目的を有するもの」であります。「食べ歩き的ツーリズム」と言えるでしょう。  

「カリナリー」の語は料理や台所」の意味を持ちますが、実際面ではかなり広範囲な

意味で使用され、「食べ物と飲物を含んだツーリズム」を意味し、ワイン・ツーリズム

Wine Tourism)もこの中に包含されております。日本で言えば、さしずめ、「酒蔵

巡りツアー」でしょうか?

 

B「低レベルの関心度」として、「農村ツーリズム(Rural Tourism)」や「都市ツーリズ

ム(Urban Tourism)」があります。これらにおいては、食そのもの存在は「旅行中にち

ょっと違った食体験」という意味合いのものであります。

Cは、ご覧のとおりです。

 

私見で申せば、総じて、日本人の国内&海外旅行分野での食文化ツアーは「グルメ・ツー

リズム」に焦点が当てられるケースが多い反面、諸外国における食文化・観光振興は(オ

ーストラリア、ニュージーランド、カナダなど)は「カリナリー・ツーリズム」の拡大に

力点が置かれる場合が多く見かけられます。 

以上、簡単に述べましたが、今回、我々がツーリズム振興のために、討論すべき

分野は、「極めて高い関心度」と「中レベルの関心度」であります。

 

今後、日本の「食文化」と「ツーリズム」を合体・融合させ、より推進させようとする場

合に、あいまいな「言葉」でなく、明確に「区別する」言葉を使用することが必要ではな

いでしょうか。

区別が必要な、現実的な面では、例えば、現在進行中のビジット・ジャパン・キャン

ペーンの推進上、厳密な意味での「グルメ・ツーリズム」分野の客層をターゲットとする

か、または、より広範囲な「カリナリー・ツーリズム」を拡大させるかにより、政府・地

方自治体や民間企業における観光マーケティング戦略は大きく異なってくることが考えら

れます。
 

そのような観点から、まず、手はじめに、食文化とツーリズム全体を包含する、「フー

ド・ツーリズム」ないしは、それにかわる言葉
を使用することを、ここに提言したいと思

います。

 

さて、次に、「世界に見る食文化とツーリズム事例」で、「中国」と「オーストラリア」を

取り上げたいと思います。 

<中国>    最近の中国ツアーの誘いには、料理を前面に打ち出した、いわゆる、食

文化ツアーが盛んです。「北京ダック」、「宮廷料理」、「薬膳料理」、「麺を極める」

、「点心を極める」、「旬の一皿・上海ガニ」、「餃子宴」などの「食在中国」をアピー

ルしたツアー・パンフレットが旅行カウンターに並んでいます。 

また、北京の人民大会堂や釣魚台国賓館などの場所で、国賓級メニューの食事も可能であ

ります。通常のパッケージ・ツアーでの組み込みも可能であり、食そのものと独特の雰囲

気でもって、訪中外国人を魅了しています。

 ところで、中国政府によるツーリズム促進のキャッチフレーズも食文化に力が注がれて

います。例えば、中国国家旅游局は、2003年を「中華料理王国の旅」と位置づけ、ツーリ

ズム・プロモーションを展開させました。

 

<オーストラリア>   次に、オーストラリアですが、

BBQ&ベジマイトの国」→「食の国・オーストラリア」に変貌しています。

連邦政府や各州の政府観光局のインターネットのホームページには食文化の広報宣伝が多

く、また、種々の観光戦略を打ち出しています。

 

 シーフード「ロブスター、オイスター、クラブ(蟹)」などの海の幸を含む食文化を前面

にして、大々的に国際ツーリズム振興を進めています。同時に、「ワイン・ツーリズム」

に近年、積極的なプロモーションを実施しています。

その結果であろうと思います。2005年による

「外国人によるオーストラリア滞在による行動」のNO.1は「食べ歩き」(Eat

out/dine at a restaurant and/or cafe)となっています。

また、最近、移民の国・オーストラリアらしく、「エスニック料理」をもアピールしてお

ります。 

ところで、政府によるオーストラリアの「食文化ツーリズムへの重視」は、税制上の助

成金に見られます。「EMDG( Export Market Developments Grants)と称されるもので

あり、オーストラリア政府による、「輸出企業助成制度」です。 

この制度は、インバウンドツーリズム振興に支出した営業経費の一部を政府が補助する

支援策です。具体的には、オーストラリアのシーフード・レストランのマネジャーが外国

にセールス出張を行った場合、航空運賃やパンフレット代に補助を出そうということで

す。
 

ところで、

「世界に見る食文化とツーリズムの事例2006年版」を紹介しましょう。

 2006年度のポピュラーな事例では、韓国における「食文化」と「テレビドラマ」との結

びつきです。ドラマの「チャングムの誓い」です。ストーリーの前半は、韓国の宮廷料理

の戦いで、本年は、宮廷料理ツアーがブームとなりました。 

また、モーツアルト生誕250周年のオーストリアのザルツブルグでは、食事の合間・合間

に数曲のオペラを組み込んだ創意工夫あるディナーが人気を博しました。

 

「国際ツーリズムを牽引させる食文化・理由/振興手法」

次に、日本を取り巻く、アウトバウンド&インバウンドにおける「グルメ・食べ歩き」は

今後、どうなるだろうか? 
そのデータを簡単に紹介しましょう。 

日本人海外旅行者による、「旅先で行なった活動」

過去7年間のデータがあります。7年前の1999年における「食べ歩き」は、

30.8%でしたが、本年の統計では、51.8%とますますグルメを含めた、「食べ歩

き」行動が、伸びております。今後、この傾向が続くと思われます。

 

一方、訪日外国人のインバウンドはどうでしょう。

         訪日前後の日本のイメージ(印象)の変化(抜粋)

訪日前に「食事が美味しい」は5位であり、「食文化」にさほどの期待感を抱いていない

ことが読み取れます。しかしながら、訪日後は3位と上昇し、しかも2位の「物価高」とわ

ずかなポイント差でありほぼ同列であります。
 

日本への魅力付けに「食文化」に大いなる期待を持っていいと考えるからです。今後の

戦略は、食文化を活用したツーリズム戦略を強く前面に打ち出す必要性があるということ

です。

国際ツーリズムを牽引させる食文化とその振興手法 

1.「政府・地方自治体・組織による食文化ツーリズム振興のプロモーション」

 

2.「マーケティング分析に基づいた食文化の情報発信」

「食文化に重点を置いたツーリズムの振興が、プロモーションでも、情報発信でも、

重要であろうということです。」

  

3.食文化関連産業とのタイアップによる「オリジナリティーある食文化ツアーの開発」 

 

「食文化関連産業とのタイアップによる、オリジナリティーある食文化ツアーの開発が重要です。」 

 

4.外国人による訪日旅行ビジネス(食文化関連)参画への促進   

 

「日本のインバウンド・ビジネスにもっと、外国人をインボルブさせることが必要なことを強調して

おりますが、食文化分野で、是非にと願っております」

 

5.食文化を熟知した「インバウンド・スタッフ」「観光ガイド」「通訳」の養成・増強   

 

6.「大学・専門機関での食文化インバウンド教育」    

 

 

「5・6の両方ですが、食文化を知るインバウンド・スタッフの育成であります。

これは、一般社会とともに、大学なども言えることです。」

 

まとめー食文化の活性化によるツーリズム効果−

「食文化」と「ツーリズム」の関連で述べてきたが、食文化を重要視し活性化の道をたど

ると、どのような効果がわが国に期待できるでしょうか。

直接的には、

@   現在進行中の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の人員面でも経済面でも大いに貢

献するであろうと、思います。

 

A   長期滞在(延泊)を促進させるために威力を発揮するものと考えられます。

地域ごとに、特色ある食文化により、訪日外国人の滞在は、延長されることを

疑いないと、思っております。

 

B   リピーター化への刺激剤となろう。

ビジット・ジャパン・キャンペーンの成功は、リピーターをいかに、定着させるかによる

と考えております。

 

C   低価格志向への歯止めを行う役割を演じよう。隣国の、中国でも韓国でも、

決して、低価格ツアーだけではありません。たとえ、高額であっても、質が伴っているも

のであれば、喜んで参加することは、度々の調査で明らかであります。

 

D   年間“活性化”を推し進め、オフ・シーズンの解消ともなろう。

365日、朝昼晩、雨が降ろうとも、食文化ツアーは実施されます。

 

E   全てのマーケット・セグメントの活性化を企図することが可能となろう。

年輩、ヤング、ファミリー、団体、個人・・・など、あらゆる層に、食文化ツアーは、訴え

る力があります。

 

他方、間接的な効果としては

@   外国人による食文化や日本文化への理解が促進される。

A   日本国民による新たな食文化の創出、食文化に対する意識向上や誇りへ結びつくになる。

B   地域住民による食文化の保護や地域への愛着心に結びつくことなどが考えられる。特

に間接的面では、複合的および連鎖的なものが多くでてくることになる。

 

ご清聴をありがとうございました。  

              

                   <トラベルジャーナル誌  掲載>