鈴木 勝 研究室
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日本観光学会誌・第38号特集号・投稿「研究ノート」
パッケージ・ツァーのパンフレットに見る差別化戦略の変遷
   ―『ルックJTB』を事例としての一考察―
          The change of distinctive strategies
  on the tour package brochures
               -A research of the LOOK JTB brand-
  

キーワード:低廉化、多様化、個性化、中抜き現象、
金融通貨危機、短サイクル化、選択肢拡大、ツアー価格帯
 

1.研究の背景

1)研究の目的

20世紀最後の年である2000年の日本人海外旅行者数は1767万人と発表され、かつ2001年予測として前年を4.1%上回る1,839万人の数字が同時に公にされた1)
 これらの数字への到達の要因を巡って、多くのキーワードが一般に取りざたされている。中でも代表格として、「旅行費用の低廉化」および「旅行形態の多様化」が挙げられている。従来、日本における海外旅行は職場旅行、招待旅行、医師会、老人会など、いわゆる「一般団体旅行」と呼ばれる形態が主流であったが、近年は前述のキーワードを柔軟に取り入れた不特定多数の消費者対象の「パッケージ・ツァー」が大きくシェアを伸ばすに至っている。
 
21世紀を迎え、パッケージ・ツァーの隆盛はさらに継続する勢いである。他方、海外旅行は単に、一般消費者性向だけによって浮沈が決せられるのではなく、政治的・経済的要因によっても大きく左右されるもので、パッケージ・ツァーもその例に漏れない。では実際面では、いかなる状態で影響を蒙るのであろうか。本小論ではパッケージ・ツァーが隆盛を迎えた要因を上記の二大キーワードを中心にして考察するとともに政治的経済的な影響がどのようにパッケージ・ツァーに投影されているかを検証する試みである。検証の結果は国際ツーリズムの研究に資するものであると考えるとともに、近年急速に台頭しつつある旅行・観光産業界における直販体制、いわゆる“中抜き現象”に対応する旅行会社の将来像へのヒントの役割を果たすことができるのではないかとも考えている。

(2)研究の方法
  パッケージ・ツァー分析の最短距離の手法として、各旅行会社の経営意思や企画アイデアなどが凝縮されているパンフレットを具体的に取り上げ、一定期間を区切り、記載内容や表現手法から、海外旅行動態を検討することが効果的であろうと考え、次の期間、デスティネーション、ツアーを取り上げ検証することにする。
@「1996年〜2001年の6年間」
A「アジア地域における香港及びバリ」
B「ルック
JTB

@およびAを選択した理由として、この期間におけるパッケージ・ツァーに急激な動きが生じ、企画面でも種々の工夫が登場してきている。一方、政治的経済的変動が顕著に現出したからである。前者の例として1990年後半の消費者マーケットにおいて「低廉化」、「多様化」、「個人化」などの徴候が大きく前面に現れたことであり、後者の事例として「アジア金融通貨危機」、「香港の中国返還」、「インドネシア紛争」などが挙げられる。

  これらの影響を受け旅行の募集形態であるパンフレットは消費者ニーズに合致させるべく、他方、政治的経済的変動に動かされる形で作成された。アジア地域では、とりわけ香港とバリはその傾向が強かったといえる。返還前年である
1996年の香港はデスティネーション別日本人海外旅行者数でそれまでトップの座のハワイを抜き、世界一となったが、翌年以降、急激な落ち込みを見せた。2000年に至りかなりの復活を示している。
  また、インドネシアのリゾート・バリは
1990年代後半には金融通貨危機、政治的不安定・紛争、ヘイズ禍(煙害)、コレラ禍などがあり、加えて外務省による「海外危険情報」の発出を蒙り、いわばツーリズム振興に逆風が吹いたが、1999年より徐々に勢いを取り戻しつつある。このように激しい振幅を経た両デスティネーションを対象としてパンフレットを介した分析は観光学分野ではその例は多くなく、意義あるものと考える。同時に、両デスティネーションは世界でも屈指の観光立地ゆえに、旅行会社相互間における競争が激しいことでも知られており、各ブランドの企画上の差別化戦略が如実に現れることにもなり、検証する上からも好適なものと考える。

また、Bに関しては、当該ルックJTB2000年度の取扱人員141.8万人(見込み)に達しており、全日本人渡航者総数の約8%のシェアを有し、日本人の一般的旅行動態を把握できる規模の数値を持ち、検証対象に値するパッケージ・ツァーであると判断したからである。ところで、高いシェアを誇るルックJTBに関して、他社ブランドとの比較において消費者ニーズの対応で全てに優れて独自色を出しているかと言えば、決してそうではない。スケールから創出される低価格、シャトルバス・システム、新規イベントなどが秀でているが、その他パンフレット上の工夫や表現は他社のそれらと大きくかけ離れることはない。なぜならば、新たな旅行企画が登場しても特許や著作権の保護がないため、翌期には類似商品が出回る分野であると言っても言い過ぎではないからである。

さて、当該パッケージ・ツァーのアジア方面に関しては、@都市型ツアーである「シティー編」、およびAリゾートに焦点を当てた「ビーチ編」とに分類されたパンフレット作成が長期間実施されている(中国、インドは別途作成されている)。各々のパンフレットから最も好評であり、数年間、比較検討可能な同一シリーズを取り上げる。これらの条件に当てはまるシリーズが「えらべるとらべる2」および「えらんでバカンス」であり、これらはアジア地域全体の45%(1999年上期)を占めると発表されており、「えらべるとらべる・香港(シェラトン)」および「えらんでバカンス(グランドハヤット)」は両パンフレットのいわゆる“売れ筋ナンバーワン”と発表(2000年度および2001年度)されている。流動的な海外旅行企画分野で、このように同一シリーズを長期間、存続させている事例は多くないといえる。なお、分析研究にあたっては、筆者はルックJTBの商品企画に、たまたま関与した経緯を有するが、企業のコンフィデンシャルな部分には触れず、パンフレットや公表数字からうかがい知れるデータを元に考察を行うこととする。図表1が比較の全体データである。

2.パッケージ・ツァーにおける差別化戦略
  「他社製品との差別化が難しいから先に作ったほうが勝ちである3」」との言及は、既に触れたように旅行商品には各種の保護がなく、そのため類似商品が出回る産業界の指摘として当をえている。しかしながら、この環境下にあっても、他社に真似のできないイベントやシステムの創造が不可欠であり、また「スクラップ&ビルド」方式と称される手法で、常に商品選別・考案を実施することが重要であることを強く指摘する。これらの実施により、差別化が困難な分野とはいえ競合に勝ちうる手法が存在すると考える。

ところで、近年の差別化手法の対象として「ブランド論争」がある。例を挙げれば、JTB19944月に「ルックJTB」の一本化に、近畿日本ツーリストは1998年上期から「ホリデー」のモノ・ブランド化に踏み切った。一方ジャルパックは複数ブランドでツアーを展開させている。各々の立場で差別化を図りつつあるが、問題は、旅行会社の内部論理の濃いブランド論争以上に、いかに消費者の多様化ニーズを吸収できる工夫やシステムになっているかである。
  また、差別化の一つとして、「価格付け」がある。これは項目を別にして論ずるが、価格面における差別化への傾斜が激しい現況にあるが、新たな需要を創造すべきイベントやシステムの企画に対する熱意がより注がれるべき段階であると考える。

3.差別化戦略の展開
(1)「短サイクル化(3カ月)」企画への転換
  パンフレット戦略が近年、大きく変わりつつある。従来の上期と下期に区分された6カ月サイクルから、3カ月サイクルへの転換である。「短サイクル化」と呼称されるものであり、海外旅行分野で長期間続けて来た上期・下期の概念が崩壊されたことになる。もともと、航空会社との運賃交渉が半期ごとに実施されてきたことに由来し、作る側の論理が優先したきらいがある。このサイクルへの変更事由としては、@航空路線拡充などの旅行素材の変化、A商品の鮮度を保ち、価格に敏感なマーケットに対応するため、B各デスティネーションの変化と各種環境変化などである。本論の考察対象であるルックJTB・アジア版は1998年上期から年間4サイクルに変更した。

ここにパッケージ・ツアーの企画からオペレーション終了までのプロセスを掲げる(図表2)が、この手順は比較的規模の大きな旅行会社に当てはまるものであるが、これが一般的であろう。スケールが小さくなれば、各手順が短縮もしくは同時期平行となり、催行期日間際に移行することになる。短サイクル化の目標で最も大きな要素は「価格」改定であるから、これ以外の大改定は実際的にはプロセス上、困難でありコスト上から消極的である。したがって、入念に検討した基幹的な商品コンセプトを保持しつつ、3カ月サイクルの商品パンフレットを作成する。なお、企画開始は図表2で示したように早期の段階であり、基本経営方針、入念なマーケティングに基づいた商品企画などを実施しなければ、競合には勝てないことになる。全国をカバーするパッケージ・ツァー、いわゆる「ナショナル・ブランド」の場合は、特に要求されることになる。

この短サイクルでは間近に迫った3カ月間に対して、木目細かな価格付けが可能になることである。ツアー・コストの変動に応じた価格付けに加え、為替レート変更への対応、急増しつつある最近の予約間際化への対応にも大きなメリットを持つ。他方、短サイクルに合致しないクルーズやSIT4)も多く、6カ月から1年以上のサイクルも少なくない。最近では上期・下期や年度をまたがって設定されている企画も多く出ている。

ところが、このように短サイクルの方向性の道にあったが、アジア地域のツーリズムの大変動で、図表1の2001年度版で判明するように、「変則2期制(3カ月と6カ月の併用)」による大幅な改訂が余儀なくされた。これは、外部的要因として、まず「マーケットの二極化現象」が指摘できる。一般的に早期の予約を求めるハネムーン、熟高年、ファミリーを中心とした層が急増し、3カ月サイクルでは対応不可能の現象が現出したからである。特に、近年のハネムーンのアジア志向がある。

  他方、若年層や、いわゆる“価格志向型熟高年”も少なくなく、結果的に双方のターゲットに対して2種類が要求されることになる。また、外的要因の一つとして、アジア全体のツーリズムの勢いである。欧米やオーストラリア方面からのツーリストの活発化に加えて、アジア域内をも盛んになってきたことである。これらの結果、ホテルや航空座席の不足が問題となってきた。特に、考察対象のバリにおけるデラックス・ホテルは早期の予約を実施しない限り、要望のホテルが確保できない事態に陥り、またホテル料金の突然の値下げ現象も稀となる。航空座席も同様な現象である。一方、内的要因としては、コスト高になる短サイクル・パンフレットの下で、急激なホテルや航空運賃の変化が少ないならば、3カ月改定制は意味がなく、「費用対効果」の観点から効率の低いものとなるからである。

(2)価格戦略
@)低価格へのシフト  「店頭でパンフレットがなくなるスピードは何に影響されるかを尋ねた質問では『価格』が」『表紙のイメージ』や『会社・ブランドの認知度』を上回ってしまった5)」。価格ほど消費者マーケットに対して、インパクトを及ぼす要素はないだろう。図表
16年間の価格の推移を検討している。中間価格帯比較では、香港においては26.5%下落し、バリでは16.8%下がっている。それ以上に特筆すべきは「最低価格帯」であろう。香港は42.9%、バリは26.9%ダウンの記録を有する。香港は返還後しばらくこの大幅値下げを維持しつつ、需要を待つ状況となった。香港の格安さが喧伝されるが、むしろ返還前の価格が異常値であったというほかない。なお、アジア全域の低価格化傾向は、図表3で示されている。2001年の世界/アジアにおける指数比較は90.585.5であり、世界平均を大きく下回っている。これは香港での超低価格が大きく関与していると考える。

A)「6価格帯」から「13価格帯」への移行    ピーク、ショルダー、オフなどと呼称し、365日を通じこれらのカテゴリーに分類し、価格付けを行い、需要喚起と収益を企図するものである。加えて他社商品との差別化を狙う。1996年の6価格帯が2001年には13価格帯と大きく拡大させている。これは例えば、ゴールデンウィークや盆などの「ピーク」といえども、一律的な価格付けをせず、さらに細分化する手法であり、木目細かなマーケティングが実施される。
  反面、夏期休暇前後の「オフ」といえども、需要喚起を目指し、起伏を持たせたドラスティックな価格付けが効果をもたらす。図表1における香港の「最低」および「最高」の価格帯指数を比較するならば、
1996年には100153であったが、2001年には100228となり極めて弾力性の富んだ価格となり、長期休暇制度が柔軟的になった最近の日本人マーケットに対して、大きな誘引策の一つとなる。 ところで、価格帯に関して言及すれば、いわゆる“アイ・キャッチ的”超低価格の戦略には注意を要する。旅行会社によっては、超低価格の実際の出発日が1日もしくは2日というケースがあり、消費者の不信感を招く事態も生じている。また、多数の価格帯がいいかといえば決してそうではない。不明瞭な価格付けで消費者及びリテーラーを混乱させている事例も少なくない。このことはブランド全体の不評へも直結し、参加人員の減少を招くことになる。

(3)選択肢拡大戦略
   消費者の多様性へのニーズに対して、考察対象期間に著しく選択の余地が広がったことが、図表1から判明する。香港やバリではそれらの傾向が顕著である。セレクションが拡大した両地域であるが、その経緯はやや異なる。香港に関しては、返還ブームが終了しその落ち込みを防御するため、ホテル、観光、オプションなどの選択肢が拡大された。もし返還後も下落を経験しなければ、ペニンシュラやリージェントなどのデラックス・ホテルが、パッケージ・ツァーの選択肢の一つになったかどうか疑わしいと考える。一方、バリに関しては多様な消費者ニーズの強さの結果、種々の選択肢が準備され、ホテルの広さ・間取りやスパなどの各種付帯設備が前面に露出されるにいたったことである。

@)フライト数拡大   航空会社や旅行会社のオペレーション上の非効率が原因で、定形パターンによるパッケージ・ツァーのフライトが主流であったが、近年、とみに選択肢が増加している。従来、バリにおいてのフライト選択は、両国間を飛行する航空会社が限定され、また座席確保が困難なため、消費者の多様性に応じられないことが、大きな要因でもあった。

A)ホテル数拡大   ホテルの選択肢拡大がもっとも注目に値する。「数量面」と「質的面」の両者が存在し、前者はホテル数の増加でありこれは図表1で示されている。他方、後者は図表から判明できないことであるが、従来にないデラックス・カテゴリーの登場である。返還後の香港におけるペニンシュラやリージェントがそれに該当し、バリにおいてはリッツカールトンやフォーシーズンズなどのホテルである。

B)観光数拡大   アジア地域での観光は一般に好評であるとはいえなかった。特に、香港などではショッピングが主体ではないかと思われる「市内観光」が大手を振っていたが、考察対象である6年間で、「市内観光&ノー・ショッピング」ツアーが誕生し、また複数(「香港基本観光」、「香港下町めぐり」、「ビクトリア湾クルーズ観光」)の観光が選択肢となった。これに加えて、“何もしないサービス”として、「NOショッピング&市内観光」ツアー(フリープラン)が登場し、話題をまいた(1996年上期スタート)。アジアでのショッピングは店舗からのコミッションは周知のことであり、土産店を訪問しなければ、コミッションもなく旅行費用が高くなる計算であるが、スケール・メリットを生かし需要喚起を目指した手法である。なお、現在では、コミッション授受の商慣習も大幅に改善されている。

C)オプショナル・ツアー数拡大   多様化に対応すべく
1999年におけるバリのパンフレットは、大幅にオプションが増えているがこれは「スパ」の増加が指摘でき、また2001年には増加に加えて、これらの所在を明確にする手法でパンフレット中に、「中綴じ」形式を採用している。また、現金所持を好まない客層などの利便性を考慮し、日本受付のオプションの拡大(2001年バリ)を図る方法も加わっている。

(4)特別付加プラン拡充戦略
   図式1で記載のように、付加特別プランは消費者性向に合致すべく、考察対象期間でも種々のプランが登場し、変遷を遂げていることがわかる。ここでは特徴的なプランに言及する。

@)現地サービス・システム拡充   旅をよりエンジョイさせる試みとして、ルックJTBは世界各国でデスクやシャトルバスの類の企画に熱意を示す(図表4)。これはグループ旅行をいかに個人感覚で旅行できるかとの追求から求められた企画であり、「量を追求しながら質へも迫った商品」と呼ぶ。アジア地域は「アジアン」の統一名称を冠し、すなわち「アジアン・デスク」、「アジアン・シャトル」、「アジアン・ほっとダイヤル」などのサービスを実施している。これらはスケール・メリットから生ずる差別化に該当し、他社との競合に耐えうる手法でもある。

A)グループ割引・プラン   「香港は8名から(G8)」、「バリは4名(G4)、もしくは10名以上(G10)」での参加には、「グループ専用車」、「2日目の自由行動に、3時間の専用車とガイド提供」の特別サービスを付加するプランを発表する。これらに該当するグループが近年、増加傾向にある。その理由として、「従来、旅行形態上は、親睦旅行や永年勤続旅行に分類されていたものが、小規模化してパッケージ・ツァーに流れ込んでいると思われる点6)」の指摘があるが、正論であろう。この種のグループに加えて、「ハネムーン同行グループ」のトレンドがグループ・プランを後押しする。なお、パッケージ・ツァー内に混入したグループの扱いに関して他の参加者との共同歩調から、問題を発生させるケースが少なくない。したがって、問題忌避の方策として、「グループ・プラン」を推奨している意味合いも同時に存するものと思われる。

B)シンデレラ・プラン   「全泊すると予算オーバーなので、憧れのホテルにせめて最後の1泊ぐらい泊まってみたいという人向きに作ったもの」とのキャッチ・フレーズである。各種パンフレットでその類似商品が見られる。このプランはホテルの需給調整も絡み、その結果、香港では落ち込みを見せた返還後に実現したプランである。

C)一名よりの出発保証   「1名による365日出発保証」の実施は、ある程度の規模の旅行会社でなければ実施不可能であろう。この保証プランはスケール・メリットが発揮される部分でもある。しかしながら、各地(東京、大阪、名古屋、福岡,札幌など)の催行を有するナショナル・ブランドでは、全国的な意思統一や商品企画上の一致など、事前準備が不可欠である。一名よりの出発保証システムは、低価格傾向との調和上、極めて困難なポリシーであろうと考える。

(5)パンフレット表示に関する企画戦略
@)パンフレット見出し配列   各デスティネーションへの動き、旅行会社の経営的意思、企画者の目論見などが反映され、各社の予測が読み取れることが一般に指摘できる。当該パッケージ・ツァーに関しては、シティー編は変動が激しい反面、ビーチ編は
6年間大きな変動は見られない。前者に関して、1996年は香港→シンガポール→タイであり、返還直後の1997年はシンガポール→香港→タイ、2001年には香港→タイ→シンガポールとなる。大きく転換している。3デスティネーション以外の特徴は、近年の韓国ブームで従来は小文字であったが、2000年から大文字に変化している。一方、ビーチ編では上期はバリ→プーケット→ペナンが定形となっている。バリに対する旅行会社の圧倒的な期待感が読み取れる。

A)ページ数・内容の拡充   ページ数の拡大に対しては、取扱人員、売上などの関係で、「費用対効果」が問われる分野であろう。近年の傾向はホテルのページ割に対して、パンフレットの中心的存在であるとの認識であるためか、ホテル・シェアが高まっている。この趣旨が強く表れているのはバリである。従来、1ページに2軒の割合であったが、2001年には1ページ1軒となり合計12ホテルとなり、各々のページにはホテルの写真,見取り図などが表示されている。消費者による選択時の判断材料がより明確となり、ホテル数増加とともに多様性に応えようとする姿勢である。

この過程への到達には過去の失敗が存在すると思われる。「個人化対応を進める上で,コース数が増えれば,パンフレット上の表記はどうしても見にくくなる。そうした選択肢の拡大とパンフレット表示上のバランスを欠いたことが、販売店の売りにくさへとつながった7」」。

3.結び
   航空会社やホテルなどによるサプライヤーの直販体制の影響で旅行業各社は大きな変容を迫られている。また、旅行業界の大型合併が発表され、競争がますます熾烈になっていく。このような環境下での旅行業としての存在は新たな需要創造である。これには多様化しつつある消費性向に照準を合せた商品企画が不可欠である。なかでもパッケージ・ツァーは、ますます旅行業では中心的存在になっていくものと考える。本論では、企画上の差別化戦略の考察を試みたが、今後の社会の変化に応じた企画、例えば、高齢化社会に適合したツアーや“子供半額的8)”発想などがどのように出てくるかが、旅行産業が今後生き残られるかどうかの、大きなポイントになると信じている。

参考文献
津山雅一・太田久雄共著『海外旅行マーケティング』同友館、
2000
小林天心著『観光の時代』トラベルジャーナル社、1999
鈴木勝著『国際ツーリズム振興論』税務経理協会、2000
総理府編『観光白書』大蔵省印刷局発行
株式会社トラベルジャーナル『週間トラベルジャーナル』
日本国際観光学会編『日本国際観光学会論文集』
JNTO編著『世界と日本の国際観光交流の動向』国際観光サービスセンター発行
JTBワールド10年史」1998
JTB「ニュースと資料」

1)JTB「ニュースと資料」2001年第1号
2)「えらべるとらべる」シリーズは下記のように指摘されている。「『延ジョイパック』『シャルル・ド・ゴール空港両替サービス』『えらべるとらべる』など、JTBワールドの10年は、まさに『お客様の個性化、多様化』対応の新サービス開発の歴史」の一つとして重要な役割を演じているとのコメントがある。(「JTBワールド10年史」1998年、24ページ。)
3)津山雅一・太田久雄共著『海外旅行マーケティング』同友館、2000年、38ページ
4) Special Interest Tourの略。観光以外の特別の目的をもったツアーで、特定の関心(Interest)を満たすためのツアーをさす(長谷政弘編著『観光学辞典』同文館、1997年、139頁)。
5)「トラベルジャーナル」19990405日号
6)吉田春生「日本人海外旅行形態論」(『日本国際観光学会論文集第8号』、20011月)58ページ。氏はさらに、「一般団体が減少の一方、パッケージ・ツァーが優勢であるとの市場分析が行われているが、従来一般団体に所属する、いわゆる報奨旅行INCENTIVEが混入しているのである」との示唆に富む指摘がなされている。
7」1999年上期全ルックJTBの前年割れの不振に対するコメント。「トラベルジャーナル」19990405日号による。
8) ジェットツアー(1997年自己破産)が1992年にオーストラリア・ツアーでこの企画を発表した。その後、世界全体のファミリー旅行を推進に寄与した。もともと、正規団体航空運賃には「子供半額」システムは存在せず、販売政策で旅行会社が主導権を握ったケースである。

<表・図形>・・・・