鈴木 勝 研究室
ホーム 私の教育分野 私の研究分野 プロフィール 趣味・関心 リンク一般 SUZUKI Laboratory

 

< 海外ツァ−・トレンディ情報 >
〜変わる旅行社の組織機能と最新パッケ−ジツァ−のトレンドと流通経路〜

[T] はじめに

 昨年の海外旅行者の数は遂に
1 500 万人の大台に達した。
これは前年に比較して、二ケタの
12%の伸び。あの不幸な阪神大震災が大きく影響するであろうと考えたが、そのようなマイナス要因を克服し、96年の今なお伸び続ける要因はいろいろあるが、なんといっても最も大きな役割を演じているのは「新関西空港」のオ−プン。この新関西空港の市場刺激効果は当初の予想をはるかに上回るもの。現在も新空港からの発着便数はさらに増加しつつあり、これは新しいマ−ケット〜例えば、アジアでいえば「ベトナム」、「ミャンマ−」など〜の開発を誘発し続ける。
 

 
日本の海外旅行市場はさしずめ、「西高東低」の気圧配置はしばらく、続くのかもしれない。このトレンドに対して、「1996年海外旅行者数予想」が先ほど(財)日本交通公社から発表された。「もし、為替レ−トが一米ドル100 円プラス・マイナス数円の幅の中で安定していたら、8 %増の1 650 万人になるであろう」と。これ以降も消費者の“ライフスタイルの変化”や“海外旅行の割安感”などが作用し中・長期的に見ても海外旅行のマ−ケットは安定拡大の方向が予測されている。
 そして二十一世紀における“大旅行時代”「
2000年、2000万人市場」も間近かである。ここにいたって、巨大なマ−ケット規模に成長しつつある環境下の「旅行産業」は二十一世紀に向けて変容を迫られている。

 まず、海外旅行者の裾野の拡大につれて、マ−ケットはますます“複合化”〜旅行目的、旅行者ニ−ズの顕在化や細分化や団体行動から個人行動化〜の傾向だ。これらに対応した小回りの利く旅行会社が要求される。また、マルチメディア、インタ−ネットなど情報化社会の本格的到来に対応した態勢も必要だ。一方、13年ぶりの旅行業法改正(
19964 月施行)により、従来の旅行産業になかった責任がより重くのしかかってきている。
 

本稿では最近の旅行産業組織・トレンドの一端を述べたい。
[U] 最近の海外旅行産業は・・・・・
<旅行会社の組織・機能の再編>
 
「近畿日本ツ−リストがホリディの分社化を決めたことで、大手旅行会社のうち、四社までが商品企画と販売を分離することになった。
パッケ−ジツァ−の取扱いが増え、一社内で企画も販売も行うことはロスが大きく、不合理という面もあった。旅行商品は地域別に発着旅行パタ−ンが異なり、地域の市場ニ−ズにあった旅行企画を提案していく事は、容易ではない。企画部門のみの分社化は、地域別会社化することで、企画と市場ニ−ズの乖離をなくし、小回りのきく商品企画が可能になる」・(ウィングトラベル紙4月8日号)。

 分社化は大手の旅行会社の欠点を補う有効な手段として、最大手のJTBはいち早く着手し、成功している。今回、近ツ−が分社化を決定した背景は「価格競争の激化」・「収益悪化」だが、これ以外に「旅行業法改正」も大きく影響している。このような大手旅行会社の再編の一方、中小の会社も専門性・情報化を深めることにより競争力を増している。
 例えば、“安売り”で登場したHISは時流に乗り現在急激に伸びている。旅行会社の流動・再編の機運はまだまだ続きそうである。

<旅行会社の商品とその流通機構>
 ところで、旅行会社が扱う商品には「団体旅行」と「個人旅行」がある。これらには「オ−ダ−メイド」型と「レディメイド」型がある。後者の「レディメイド」型が本論の「パッケ−ジツァ−」。交通・宿泊・食事・ガイドなどがセットされたツァ−。これらのパ−ツの組み合わせいかんで「フル・パッケ−ジ」型とか「フリ−タイム・パッケ−ジ型」とに区分。いろいろなツァ−があるが、不特定多数のお客を対象にしたものが厳密にいうパッケ−ジツァ−といえる。
 これを例に旅行会社の流通システムを少し解説してみたい。パッケ−ジツァ−を造成する会社(メ−カ−兼卸売りをホ−ルセ−ラ−といい、その小売りを担当するのがリテ−ラ−。旅行業界の場合、他の産業と異なり、ホ−ルセ−ラ−はその専業とは限らない。一つの旅行会社がホ−ルセ−ラ−とリテ−ラ−の両方を持つ。むしろこの方が多い。

 ブランド「ルックJTB」の場合を表で見てみよう。
 このパッケ−ジツァ−はJTB/JTBワ−ルドのホ−ルセ−ラ−商品で、主ににJTBの全国の支店で販売する。同時に他社のホ−ルセ−ラ−商品、例えば・「ホリディ(近ツ−)」や「マッハ(日本旅行)」なども販売する。これ以外に数は多くないが、自社のネットワ−クを持たず、ホ−ルセ−ラ−に徹した旅行会社、いわゆる「純ホ−ルセ−ラ−」の、「アイル」(ジャルパック)や「ジェットツァ−(会社名も同じ)なども販売。このようなパッケ−ジツァ−商品を「リテ−ラ−」は各自の販売店カウンタ−を中心に販売し、ツァ−料金の
10%程度のコミッション(手数料)を受けるのが通常のパタ−ン。かくして、ゴ−ルデンウィ−クや夏休み前ともなれば、旅行カウンタ−のパンフレット立てには各種ホ−ルセ−ラ−商品が並ぶことになる。消費者はこれら各種のツァ−を見比べて、自分にあったツァ−を選択できるようになっている。

<メディア販売などの台頭>

 パッケ−ジツァ−に関して、新聞広告や通信カタログを通じて直販するシステムも盛ん。また、「ABロ−ド」などの月刊誌を通じた方法も従来の店頭販売と大きく異なる。たしかに広告掲載にはかなりの経費がかかるが利用の仕方では大きな効果がある。また、最近ではコンビニ・ストア−やインタ−ネットでもパッケ−ジツァ−の紹介もされている時代になった。店舗を構えた販売ネットワ−クの発展・拡大と同時にこのように無店舗販売も急速に進みつつある。

[V]最近のパッケ−ジ・ツァ−
〜パッケ−ジツァ−ができるまで&ツァ−価格設定〜

 
「ほとんどのホ−ルセ−ラ−にとって、値上げは
91年度上期以来、5 11期ぶりのことである。96年度上期商品の価格動向は、各社とも値上げ基調で、上げ幅<全方面>はルックJTB3.4%、ホリディ4.2%、 マッハ3% アイル3% ・・・。
各社の説明によると、旅行需要が世界的に好調で、ホテルの値上げなどにより仕入れコストが上昇しているうえ、円高傾向がひと頃ほどではなくなったため、値上げに踏み切った」。これは最新のニュ−ス(トラベル・ジャ−ナル紙〜平成
8 3 25日号)。
 このようにパッケ−ジツァ−の動静が海外旅行全体の動きのバロメ−タ−とされるのもパッケ−ジツァ−のシェア−がますます拡大している証拠。上期(
4 月〜9 月)と下期(10月〜3 月)、毎年2 回発表されるのが通例。ではどんなサイクルで造られ、販売されているか、またどの様に価格設定されているのだろうか。 ホ−ルセ−ル商品作りの開始は通常一年以上前から開始される。
 ちなみに
96年度上期の商品発表までのプロセスは・・・1995年に関しては、
4 月〜6 月)マ−ケティング(来年度方針決定のための実績検討、他社動向調査など)
5 月〜7 月)人気デスティネ−ションや新規開発地域への現地視
       察、方針決定、ホテルなどの基本仕入れ交渉
8 月〜9 月)基本日程決定
 
(10月〜12月)為替レ−トの決定(見込)、地上費の契約、航空運賃決定、旅行代金決定
10月〜12月)パンフレット作成      
1996年(1 月)パンフレット印刷、商品発表会および販売開始
1 月〜3 月)全国宣伝(新聞、雑誌、テレビなど)
、イベントなどの販売促進展開

@企画・開発・・・旅行者のニ−ズが多様化する一方、ボリュ−ムも多くなり、一つの・「パッケ−ジ企画課」では到底、対応ができない。
 ちなみに、ルックJTB企画課は各デスティネ−ション毎にある。「アメリカ」、「ヨ−ロッパ」、「アジア」、「オセアニア、「ハワイ」、「ミクロネシア」、「中国」など多くの企画課に分かれている。他の多くのホ−ルセ−ラ−でも同様だ。競合の激しい最近のパッケ−ジツァ−では常に新しいそして“話題性のある”商品を作ることが使命ともなっている。
 マ−ケットの流れをいち早く掴み、時には時流を作ることが必要でもある。 さて、新企画の打ち出しと同時に重要なのが価格付け。この章の冒頭に今期の5年ぶりの値上げについて言及しているが、価格決定には様々な要素が絡む。
 まず、「為替」。この上がり下がりは重要な要素。5年近くの値下がり基調の原因はこの影響が大きく作用してきた。さて、今期は耳慣れない要素、すなわち、「旅行需要が世界的に好調で、ホテルの値上げなどにより仕入れコストが上昇・・・」の原因で値上がっている。世界全体に旅行ブ−ムということだ。
 例えば、最近日本からの旅行者がスロ−になってきたオ−ストラリア。過去の経験からいえば、このような状況であればホテル仕入れ価格は下がるのが一般的。しかし、東南アジアなどからのツ−リストの需要が多く、下がるどころか、反対に値上がり傾向。したがって、価格付けも日本人マ−ケットのみならず、世界の動きを観察し、仕入コスト交渉をしなければならない 。
次に「航空運賃」。マ−ケットの動きで大きく変わる要素でもある。半年以上先の予測が難しいのもこの航空業界。さて、以上の諸要素にまだまだ・・・ハネム−ン、熟年、OLファミリ−、リピ−タ−向けツァ−にはそれなりの政策を、また、フルパッケ−ジ型かフリ−タイム型かのタイプもある。そして季節波動(シ−ズン・オフには安くとか)などの要素も勘案して、価格決定の最終ステップとなる。いずれにしても、「値ごろ感の追求」が最近の企画担当者の合い言葉となっている。

A仕入・手配・・・サイクルの前半で企画・開発されたものを商品化するステップ。“企画倒れ”にならないためにもこのセクションは企画課同様に重要。
 一般に「AIR」「LAND」と称されているパッケ−ジ部品がある。「AIR」とは航空部品をいい、航空座席の仕入れと共に料金交渉を行う。最近の旅行代金の低廉化は航空運賃の安さのおかげでもある。他方、「LAND」と称されるのはホテル、食事、バス、現地ガイドなどのパ−ツのこと。仕入手配担当者はこれらの両者を取り揃えるわけであるが、旅行商品の場合は通常のメ−カ−・卸しと異なり、「AIR」「LAND」の仕入れの後に企画される場合と企画が先行して後に仕入れがされる場合とがある。
 例えば、オ−ストラリアのエア−ズロック・キャンペ−ン企画を想定しよう。年間を通じて世界中から多くのツ−リストがこの地区にやってくる。このホテルの仕入れはかなり難しい。企画をいろいろ練ってもホテルが確保できなければ、アイデァは“絵に描いた餅”。したがって、このような場合には企画に先だってのホテルの仕入れが必要。反対に、短時間でもいいからエア−ズロックに登りたいという多忙な消費者のための、「エクスプレス・エア−ズロックツァ−」作りには企画のアイディアが先行し、最短のル−トを考案し航空座席と“一泊”のホテルの仕入れを行うことになる。いずれにしても、企画と手配は密接な関係を保たなければ、旅行商品として実現しない。
 ところで、手配部門の登場はこの一年のサイクル以降に登場するのが大部分。すなわち、
19964 月以降に実際にツァ−が催行される際にだが。宿泊施設のホテル、観光、食事、バスなどの手配には入念な注意が必要。旅行者が日本の空港を出発する段階から帰国するまでの全行程を頭に描き、満足の行くスケジュ−ルを立て実行しなければならない。最近のFIT(個人旅行化)の時代には更に綿密な手配は要求されるようになってきている。

B販売促進・・・企画・手配との連携が重要なのは「販売促進」。

 サイクルの後半部分を担う。新聞・テレビなどを通じて消費者へ直接訴える。共にホ−ルセ−ラ−として販売代理店へのセ−ルス・アプロ−チ〜商品説明会、店頭用ポスタ−・パンフレット・販売用マニュアルなどのセ−ルスツ−ル作成など〜を行う。パンフレットは企画部門と作成することになるが、消費者に訴える中身のあるものが必要。特に競争が激しくなった昨今、また旅行商品は目に見えない“無形の商品”であるので、よけいに重要になってきている。